第5話

【ジェードside】



出会ったのは、六歳の頃。



執事の家に生まれ、一生執事として主に仕えるという人生のレールを敷かれているという、幼い俺にとってはなかなかに酷な話に、俺は抗う事すら許されず、心が静かに閉じて行くのを感じていた。



そんな俺が初めて出会った最初の同じ歳の女の子が、セレアだった。



彼女は、俺の卑屈な心の暗闇を照らす光だった。



髪も目も肌も、何もかもが綺麗で、衝撃を受けたのを今でも鮮明に覚えている。



しかも、俺に優しく笑いかけた笑顔も、透き通るような女の子特有の高めの声も、俺には新鮮で鳥肌すら立った。



彼女に初めて触れた時の、心臓を打つ早さが異常な程だった。



それが、一目惚れだと知った。



主である彼女に恋をして、大きくなるにつれて、自分の中に生まれた新しい感情。



セレアが俺には欲がないと言ったけれど、俺程欲深い男はいないんじゃないか。



出会った頃から変わらず、穢れがなく純真無垢で、可憐なままの彼女に、段々とやましい気持ちが生まれてくるのが、嫌で仕方なかった。



自分の中に、男のいやらしい部分がある事がこんなにも汚くて、嫌悪なものだったなんて。



彼女の事を想いながら、自分の目覚めた性欲を自らで放ったのもその頃で、終わった後の吐き気が物凄くて、それでも普段自分の欲を隠しているからか、その反動がデカくてやめる事が出来なかった。



けれど、人間慣れるもので、今では何も思わなくなった。



ただ変わったのは、前より欲が大きく膨れ上がり、彼女への黒くて汚い感情が濃くなった事だ。



「はぁ……駄目だ……もう、こんなんじゃ足りないな……」



困った事に、自分でするだけでは発散出来なくなって来ていた。



こんなのでは、執事としてやっていけないだろうし、父からしたら執事失格だと言われてしまう。



「まだまだだな、俺も……」



彼女の前では何とか無理やり保っている理性も、いつ何処で崩れるか自分でも分からず、毎日隠すのに必死だ。



けれど、あまり隠せなくなってきているのも事実で。



最近、彼女の可愛い言動や仕草に、つい彼女に触れてしまう。そして、後悔する。



彼女に多く触れた日の反動は、物凄いもので。それでも、どちらも止められなくて、自分を更に追い詰めていく。



女を買う事も考えたし、簡単だった。



けど、それはしたくなかった。



これ以上、汚れたくなかったから。



汚れた手で、彼女に触れたくなかった。



「……好きだよ……セレアっ……」



彼女自身に届く事のない言葉が、虚しく部屋に響いて儚く消える。



彼女には、絶対に知られてはいけない感情。



俺の汚い部分。



彼女の前でだけは、偽りであろうと綺麗で完璧な執事でありたい。

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