第一章

第4話

街を歩く人達に上手く紛れるように、動きやすい服に着替え、ジェードと二人で並んで歩く。



何故か手を繋いで。しかも、指を絡めた恋人繋ぎだ。



「何か昔に戻ったみたいで楽しいわ」



「そう? 君が楽しいなら、俺も嬉しいよ」



爽やかな笑顔の中に、何処か照れたように笑う。



私はこの顔が好きだ。たまに見せるジェードの素の部分が見える気がするから。



幼い頃は、よく二人でこうして手を繋いで歩いたものだ。



一人っ子だった私に、兄妹が出来た気分で嬉しかったのを覚えてる。



ウキウキしながら、街を歩く。



「本当に楽しそうだね」



「だって、ジェードとこうやって出掛けられる機会なんて、ほとんどないから貴重だもの」



「じゃぁ、是非楽しませないと。男として」



そう言ってウインクして見せるジェードに、鼓動が跳ねた。



本当にどこまでも私を魅了するのが上手い。



「で、でも、私じゃなくてジェードが楽しまないと、プレゼントにならないじゃない」



「俺は君といれるだけでいいよ。君の傍で君を世話していれればそれが、一番のプレゼントだよ」



髪を撫でられ、微笑むジェード。



何故彼は、こうまでしてストイックで、欲がないのだろう。



私の傍で、私の世話をする人生がいいなんて。いくら生まれながらに執事の家系に生まれ、死ぬまで執事としてやっていくとはいえ、少しくらい欲があってもいいはずだ。



一度きりの人生、自分の好きなように生きてみたいと、絶対に思わないはずがない。



「ジェードは何でそんなに欲がないの? 好きな事、やりたい事をやって生きて行きたいって、思わないの?」



驚いたような顔をした後、すぐに柔らかい笑みで私を見た。



「勿論、俺も人間だから欲がないわけじゃないよ。でも、物心ついた時から執事としてって育ったから、そういう生き方しか知らないし、出来ないんだよ」



困ったような顔で笑うジェードが、一言「ありがとう」と言った。



ジェードの言った言葉が、少し寂しく感じた。



運命だと言ったらそれでおしまいだけど、それでも、少しでもジェードにこんな人生は嫌だなんて思って欲しくなくて、私はジェードを見上げた。



「なら、私の傍にいる間は、私といてよかったってジェードに思ってもらえるようにするからっ!」



力いっぱい言うと、ジェードは綺麗な目を丸くして驚きを表した。



「あはは、本当に君はっ……最高の主だね」



繋いだ手を引かれ、額に唇が当たる。



スキンシップは元々よく取る方だったけど、突然されると駄目だ。



心臓がうるさい。



改めて、街を歩き回って、どうなのかは分からないけど、私達らしいデートをした。



少しでもジェードが楽しんでくれていたら、いいなと願いながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る