第20話
2
「それより永人くん。見て。ポスターできたんだよ」
「あ、ホントだ。すげー!」
永人くんが背筋を伸ばしてポスターを眺めた。
わたしにとっては少し上向きで見なきゃいけないポスターも、永人くんだと真正面だ。
さっきの剣幕がウソみたいに、ハチの写真を見る彼の目がやさしくなる。
わたしまでやさしくされているようで、ふっと心が安らかになる。
「いいのができたね」
「うん。クラスのみんながいろいろ協力してくれたの」
「へー、人見知り卒業じゃん」
「結愛ちゃんたちのおかげだよ。それに、永人くんも」
永人くんがびっくりしたようにこっちを見た。
「俺なにもしてないよ?」
「してるよ。永人くんがきっかけを作ってくれたから、結愛ちゃんたちと話せたんだよ。ありがとう」
「うん……役に立ったならよかった」
永人くんが、鼻先をかきながらポスターを見た。
わたしも見上げる。
真ん中で小首をかしげている、ハチの顔。
かわいい――そう思うと同時に、ぐっとのどの奥につまるものがある。
「……どうした?」
ポスターを見ていたはずの永人くんが、わたしの変化に目ざとく気づいた。
心配そうな顔。
なんで気づいちゃうんだろう。
わたしはつま先に目を落としながら苦笑いした。
「なんでもない」
「うそ。言っていいよ。俺、なんでも聞く」
永人くんが、タオルでもかけてくれるかのようにささやく。
そう言えば、猫カフェでダメな自分を告白したときも、ちゃんと聞いてくれたんだっけ。
かなりかっこ悪いこと言ったのに、否定もせず、ダメ出しもせずに、永人くんはただただわたしの想いを受け止めてくれた。
永人くんには、言っても大丈夫かも。
そう思ったわたしは、ためらいながらも安心して、口を開いた。
「わたしね、身近なところで新しい飼い主が見つかったらうれしいなって思ってる。これは本当」
「うん」
「でも……やっぱりね」
小さいため息が出た。
「ハチとお別れだと思うと、ちょっとだけさびしいんだ」
言ってしまうと、体からふっと力が抜ける。
あんなにたくさんの人に協力してもらっているのにこんな身勝手言うなんて、自分でもあきれてしまう。
でも、今、口に出せてすごく楽になった。
「……ごめんね、せっかくがんばってもらってるのに。こんなこと言ったら失礼だよね」
「いいよ。たぶん俺でもそう思う」
永人くんはあの日と同じで、やっぱりわたしの言うことを否定しないし、ダメ出しもしなかった。
ただわたしの言うことを丸ごと受け止めて、ポスターを眺めている。
「かわいいもんな、ハチ」
永人くんの手がふいに伸ばされ、ハチの写真の鼻先をさわった。
それだけのことで、胸が締めつけられるような思いがした。
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