エピローグ

第73話

高校三年生は、なかなか忙しい。



「あぁ? 進学か就職?」



「私、正直やりたい事もないし、これと言って得意な事もないから、普通に就職するんだろうなぁとか、フワッとした考えしかないから、どうしようかと」



「意味なく大学行くなら、就職した方がいいだろうけどな。まぁ、ただ遊びたいだけの奴なら別だけど、お前はそういうのじゃねぇだろ」



化学準備室の奥の部屋。



いつものその場所で、私は逸耶に用意してもらったコーヒーを飲みながら、進路相談中だ。



立って聞いていた逸耶が、ソファーに座る私の隣に座った。



「つーかさ、お前のその選択肢の中に“水乃家に永久就職”ってのはねぇの?」



「ん? 逸耶の家? 何かお店でもしてたっけ?」



逸耶のご両親は、外国で研究をしていると聞いた気がするけど。



私の言葉に、逸耶がポカンとしてフリーズしてしまった。



「え、私何か変な事言った?」



「鈍感なのか、ただのバカなのかどっちだ」



「馬鹿とは失礼ね」



何故、私がこんな暴言を吐かれないといけないのか。



逸耶が私を見つめて、首を傾げる。



「俺のお嫁さんになりませんか? って言ってんだけど、どうよ。宇宙一幸せになれるよ?」



組んだ脚に頬杖をついて、満面の笑みでこちらを見る。



「あ、お、およ、お……」



「エロいお口パクパクさせて、可愛い奴だな」



「ンっ……」



優しいキス。



触れるだけなのに、体が熱を上げる。



「柚菜ちゃん、お返事は?」



下唇を指でなぞられ、余裕な顔でニヤつく。



正直、断る理由はないし、逸耶とずっといられるなら、それもいいかもしれない。



「……よ、よろしく、お願いします……」



「こちらこそ」



言って笑った顔が、少し嬉しそうに見えたのは、私の気のせいではないと思う。



「んじゃ、早速」



「へ? ぅんンっ、はっ、ンっ……」



突然ソファーに押し倒され、口が塞がれた。



「ほら、舌出して」



言われるがまま、舌を逸耶に突き出すと、食べられるように絡め取られる。



「ふぅ、んっ、ンっ、はぁ……ぅ……」



ただ、これは一体どういう状況だろうか。



何が早速なんだろう。



「んっ、ちょっと、待ってっ……ねぇ……」



「はぁ……何だ……今からいい女抱くんだから、邪魔すんな……」



「何が、早速?」



「あ? 夫婦になるんなら、やる事は一つだろ」



私は夫婦になる事と、早速という言葉が繋がる意味が分からず、首を傾げる。



「夫婦と言えば“子作り”しかねぇだろ」



なるほど。だから早速なのか。



「もういいか? 再開してぇんだけど」



「うん、いいよ……」



再びキス。

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