第十五章

第68話

名前を見ただけで、体が準備を始めるみたいに熱くなる。



震える指をスマホの画面に滑らせる。



「……はい」



『出るだけでもう声がエロいのは、何で? まさか、先に始めてたわけじゃねぇよな?』



「な、何もしてないっ……」



『なら……期待してんの?』



低く囁かれ、ブルリと体が震えて肌が粟立つ。



『お前の事だから……触ってもねぇのに、もう下着は大変な事になってるんじゃねぇの?』



電話越しに、耳の奥から全身に駆け巡る快感に、何もしていないのに息が上がって来る。



『勝手に触んなよ? まだだ』



見えてないから少しくらい触ったところで分からないだろうに、私は逸耶の言葉を忠実に守っている。



『もうすぐ玄関に着く』



それしか言われてないのに、私は立ち上がって玄関に向かう。



脚が、震えてよろける。



バランスを取る為に脚に力を入れた瞬間、扉の開く音がやたら大きく聞こえて、ビクリと体が反応してその場にしゃがみ込んでしまう。



「へぇー……いい眺めだな」



「ぁ……」



意地の悪い笑顔で、ギラギラした獣みたいに興奮の色を宿して細められた目に、上から見下ろされるだけで快感が物凄い波となって体を駆け巡る。



ペタリと座り込んで見上げる私を楽しそうに見ながら、逸耶はワザとゆっくり靴を脱いで、ゆっくり近づいてくる。



私はそれを待っていられず、まるで赤ちゃんがハイハイをするかのように、四つん這いで逸耶に這い寄る。



「動くな。いい子でそこにいろ」



低くく言われ、再びペタリと座り直す。



体が、逸耶の言葉に反応してしまう。



やっと逸耶が私の手が届く範囲に来て、頭をやさしく撫でた。



「いい子で待てたな」



甘やかすみたいな甘い声で言って、逸耶は優しく笑う。



「何? もう、欲しいの? なら、どうするか分かる?」



口調は優しいのに、誘導するみたいに私を翻弄する。



私は目の前で立って待つ逸耶の、ズボンのベルトに手を掛ける。



緊張と、逸る気持ちからの焦りが、指を震わせる。



「何? 今更緊張してんの?」



見透かされ、困ってしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る