第66話

不満そうな声で歩望君が、私と逸耶を交互に見る。



「何か二人、仲良いっスね」



「まぁ、付き合い長いしな」



「よく話すし、色々先生の雑用を押し付けられてるからね」



拗ねたみたいに「そうなんスね」と歩望君がそっぽを向いた。



何処までも可愛い後輩を横目で見て、笑ったのは内緒だ。



歩望君を送り届け、私と逸耶は教室とは逆の方へ歩いている。



先程から、心臓が大きな音を立てていた。



逸耶は何も言わないし、私も黙っている。



ずっと来ていなかったから、懐かしくて、自然と頬が緩む。



逸耶の匂いがいっぱい詰まっている、私が逸耶との初めてをたくさん経験した場所でもある。



促されて中へ入り、後ろで鍵が閉まる音がやけに大きく聞こえた。



心臓の音が早くなり、体の熱が一気に上昇するのが分かる。



「んっ、ふっ……はぁ、ぅんンっ……」



「はぁ……お前っ、ンっ、はっ、俺をっ、嫉妬で……んっ、殺す気か?」



振り向いた瞬間、壁に追いやられ、唇が一気に塞がれる。



壁と逸耶に挟まれ、激しく舌が絡まる。



頭が痺れて、クラクラする。



自らの体を支えるように、私の顔の両側の壁に置かれている逸耶の腕を、それぞれの手で掴む。



「嫉妬っ……うれしっ……んっ……」



「はぁ……クソっ、喜んでんじゃねぇよ」



ぶっきらぼうな言葉を言いながらも、笑ってくれる。



「嬉しいからって、ワザとやんなよ? んな事したら、ぐっちゃぐちゃに抱き潰すからな」



そんな言葉すら私にはご褒美だという事を、逸耶は分かっているのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る