第65話

やっぱり男の子は凄い。



好きだという気持ち一つで、こんなにも男らしく見えてしまうんだから。



至近距離に歩望君の顔があり、まっすぐ刺さるみたいな目に見つめられて、少しドキっとする。



「はーい、ストップ」



目の前に黒い板みたいな物が現れて、歩望君と私の顔の間に壁が出来る。



「何堂々と廊下のど真ん中でイチャついてんだ」



「いつ……先生っ……」



「で? 早速浮気か? ん?」



「んっ……」



持っている生徒名簿で隠れてるのをいい事に、逸耶が私の耳元で囁いて、耳をいやらしく舐め上げる。



ゾクリとして、声が出そうになるのを必死に抑える。



「おら、さっさと教室戻れ、授業始まんぞ。って、そういやお前、方向音痴だったな。一緒に戻ってやるから、ついてこい」



歩き出した逸耶に、歩望君と二人で後についていく。



「何で先生が俺の方向音痴知ってんだよ」



「あ? 少年よ、先生は何でも知っているのだよ」



「真面目に聞いてんスけど」



真顔で質問され、逸耶は面食らったようで、目を瞬かせた。



「お前、何か可愛いな」



「かわっ……はぁ? 男相手に言う言葉じゃないっスよ、それ……。しかも男に言われても、俺そういう趣味ないんで、嬉しくないっス……」



歩望君、そういう所が可愛いんだよ。



ついそう言いそうになって、言葉を飲み込んだ。



「お前ならすぐ可愛い彼女が出来るよ。自信持て」



「な、何の話しっスかいきなり……。俺は柚菜先輩一筋っスから」



「ほぉー……それは頼もしいな」



言って、逸耶はニヤリと笑ってこちらを見た。



「だとよ、柚菜先輩。さすが高嶺の花だな」



「それ、褒め言葉だと思ってます? やめて下さい」



「へーへー、すんませんねー」



茶化すみたいに逸耶が楽しそうに笑う。

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