第十四章

第64話

デジャヴというのを聞いた事はあるけど、経験する事はあまりない気がする。



「わ、笑わないで下さいよ……」



「だって……ふふ……」



「俺だって、覚えようとしてんスけど……」



「全部同じに見える?」



「そうっスね。同じっスよ、絶対」



力いっぱい頷く方向音痴の下級生、歩望君をまたまた保護し、私より少しだけ背が高い歩望君と並んで歩いてる。



「あ、あのっ……聞いても、いいっスか?」



「答えられる事なら、何でも聞いて」



聞きづらいのか、聞くまでに何度か言いあぐねていた歩望君が、こちらをチラリと見ながら口を開いた。



「先輩は、その……こ、こ、こ、恋人、とかっ、その……付き合ってる人、いるんスか?」



まさか、この手の質問だったとは予想外で、絶句してしまう。



逸耶とは、付き合っている事になるんだろうか。



付き合うとかそんな話はしてないし、でもお互いが好き合ってはいるから、恋人ではあるのだろうか。



「えっと……多分、いる、かな」



「多分? なんスかそれ」



「付き合ってみたいな告白した訳じゃないし、結構複雑なんだよ」



「そう、なんスね……」



下を向いた歩望君を覗き込むみたいにすると、目が合った。



大きな目が、戸惑いに揺れる。



「告白する前に、フラれるとか、あるんスね」



手首を掴まれる。



「先輩の事好きになりました。彼氏さんとの間に、ちょっとでも俺の入る隙、ないスか?」



「歩望、君……」



彼らしい、まっすぐな告白。



私はそれに応えられはしないけど、それでも彼の気持ちはちゃんと嬉しく思う。



「ごめんなさい。私は、彼しか見てないし、これからも彼しか見られないから」



歩望君をまっすぐ見つめ返して、しっかり返事を返す。



彼の気持ちにちゃんと向き合いたいから。



歩望君は、少し息を吐いて私の手首から手を離した。



「すっげぇ好きなんスね。ムカつくけど、先輩が幸せなら、別にいいっス」



「ふふ、ありがとう。告白、ちゃんと嬉しかったよ」



「でも、そいつが先輩を泣かせたら、俺すぐにそいつから先輩を奪うんで」



可愛いと思っていた後輩が、逞しく見えた。

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