第63話

足音は、近づいてくる。



様子を見ていると、身知った顔が現れた。



「歩望君?」



「知ってんの?」



「あ、うん。最近知り合った子で、一年生なんだけど、破滅的に方向音痴なんだって」



「へぇー。行ってやるか? 多分あの様子は、迷ってんな」



行ってあげたいけど、逸耶から離れるのも勿体ない気もする。



どうしようか逸耶を見上げる。



「別にいいぞ、どうせお前はあーいうの放って置けないんだろ? 行ってやれ。俺は消えてなくならねぇから安心しろ」



言って、触れるだけのキスをして微笑んだ。



「逸耶……もう一回」



「クールなお前もいいけど、甘えん坊なお前もなかなかいいな……結構来るもんがあるわ」



そう笑ってしたキスは、さっきより纒わりつくみたいな、大人のキスだった。



見つからないように、逸耶は手だけで私に行けと伝え、私は逸耶から離れて迷子の少年を助けに行く。



「歩望君」



「あっ、柚菜先輩っ! 何してんスか?」



「歩望君こそ、また迷子?」



「ははは……また、っスね……」



私は歩望君をエスコートするべく、歩き出した。



その間も、逸耶の視線を背中に感じていたのは、内緒だ。



教室ではなく移動教室だったらしく、近くまで行くと友達が彼を探していた。



無事送り届け、相変わらずお礼が激しいけど、私は彼に背を向けて歩き出した。

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