第62話

逸耶の中に色々条件があるらしく、それが原因で今まで散々フラれて来たらしい。



「男と二人きりで密室にいるのも、出掛けるのも、勿論食事も却下。必要以上に男と接触するのも禁止だ。連絡は出来るだけ短めに、必要最低限の会話にする事」



まだまだあるらしく、眉を寄せる私に逸耶が苦笑する。



「ん? その顔、面倒になって来たか?」



「ううん、そうじゃなくて。ただ、逸耶って、案外独占欲強いんだと思ったら、意外で。色々余裕に見えるから」



「俺はお前が思ってる以上に嫉妬深いし、束縛する。四六時中彼女を目の届く範囲に置いときたい。寧ろ閉じ込めて部屋から出したくないくらいだ。さすがにそこまではしないがな」



どこまでも意外だ。



「やめるなら今だぞ。どうする?」



逸耶は、わざわざ私に逃げ道を用意する。



「やめない。いいよ、いっぱい縛って、閉じ込めて」



逸耶の首に腕を回して、唇を捕らえる。



前に“面倒だ”と言ったのは、彼女がという意味ではなく、自分がという意味だったらしい。



「今までの女には、さっき言った事の半分は我慢して抑え込んでたが、お前相手にそれは無理そうだわ。全力出るだろうから、マジで嫌になったり怖くなったらすぐ言え。出来るだけ逃がしてやれるよう、努力はする」



まるで日常会話でもしているかのような顔で、逸耶は言った。



けど、私は特に怖さもなければ、逃げたいとも思わない。



私も大概だと思う。



「GPSも付ける?」



「自分から言うか? それ」



「何かそういうのやる人いるって聞いた事あるし、私も逸耶の事縛りたいし、閉じ込めたい」



「へぇー……嬉しい事言ってくれんじゃん」



鼻を擦り付け、額、瞼、頬、そして、唇にゆっくりキスが振る。



「でもまぁ、縛るにも限界があるしな。首輪つける訳にもいかねぇし?」



そう言って、私の首筋に唇を這わせる。



チリリと痛みが走る。



気持ちいい、痺れみたいな痛み。



「お前の、この白くて細くて噛みつきたくなる首に、首輪はよく似合いそうだな……」



「んっ……」



ゾワゾワする感覚に、体をぶるりと震わせる。



「しっ! 誰か来る」



私を隠すように抱きすくめ、耳を澄ませると私達の耳に、足音が聞こえてくる。

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