第61話
先生は私を抱きしめたまま、口を開く。
「こっち向けよ」
「やだ」
「いいから向けって」
「嫌」
「柚菜……こっち向いて……。お前の顔、見たい」
何でそんな愛おしそうに、まるで恋人に話すみたいな声で囁くの。そんなの、無視出来るわけない。
私はゆっくり体を先生の方に向けた。
「俺は言い逃げなんて、許さねぇよ」
両頬を大きな手に包まれて、顔を上げさせられると、先生の射る様な視線に捕えられる。
「先生……」
「名前」
「ぃ、逸耶っ……」
「まだ何もしてねぇのに、そんな期待した顔してんじゃねぇよ、エロガキ」
ガキじゃないって言い返したいのに、逸耶の目に囚われると、まるで金縛りにあったみたいに動けなくなる。
「俺は好きでもねぇ女を抱く程飢えてねぇ。生徒に手を出すんだから尚更だ。お前だから抱くし、構うんだろーが。そのくらい気づけ」
「えー……横暴」
「誰がただの生徒に、部屋提供して、何ヶ月も自分の身削って時間掛けて世話すんだよ。俺はそんなに暇じゃねぇ。お前だからだ」
どうしよう。
愛の言葉を囁かれているわけじゃないのに、それ以上の幸福感が身体中に襲い掛かる。
「逸耶……好き」
「知ってるよ。毎回お前から送られるあっつい視線は、痛いくらいに伝わってるしな」
苦笑するのに、何処か照れたみたいな顔をした逸耶の腕に手を添える。
そんなに逸耶を見ていたのかと思うと、少し恥ずかしい。
「柚菜、好きだ。あ、違うか」
「へ?」
逸耶はゆっくり顔を更に近づけ、フワリと目を細めて笑う。
「愛してる」
唇が触れて、すぐ離れる。
「うわ……俺、愛してるとか初めて言ったわ。これヤバっ、はっずっ!」
顔を真っ赤にして顔を手で覆う逸耶へ更に近づき、胴にしがみついて顔を埋める。
私だって恥ずかしいし、嬉しさでニヤニヤが止まらない。
逸耶に言われた“愛してる”は、凄く特別なものだ。
「今更こんな事言うのもアレだが、お前ほんとに俺で大丈夫か?」
「……?」
逸耶が言っている意味が分からず、私は逸耶に首を傾げて見せる。
「前にも言ったが、俺はだいぶややこしいし、面倒だぞ?」
散々私の周りにいた男達の事を知っているのに、今更何を聞いているのか。
「例えば?」
逸耶に抱きついたままの私の腰辺りで指を組み、抱き返す逸耶を見上げて問う。
「そうだな。とりあえず前みたいな露出高い服はまずアウトだ。スカートは膝下な」
「細かくない?」
「俺以外がお前の肌見る必要ねぇだろ」
当たり前だろとでも言うように、逸耶は続ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます