第十三章
第59話
すっかり夏服に変わり、雨が多くなり、暑さもだいぶ分かりやすくなってきた。
「柚先輩の夏服……何度見てもエロいよな」
「それには同意っスね」
「聞こえてるよ二人共。そういうのって、本人がいない時に言うものじゃ?」
目の前で私を凝視する二人の後輩に苦笑しながら、私は部室の片付けをしていた。
「柚菜、悪いんだけど職員室行って来てくれる? このメモに必要な物書いてあるから。重いものはなかったと思う」
「じゃぁ、僕もお共しますよ」
「あんたはこっち。ほら、他の男子も力仕事手伝ってー」
不満そうな声を背に、部室を出て職員室へ向かう。
近くにいた先生にメモを見せ、ダンボールを受け取る。
足りない物は倉庫にあるらしく、鍵を預かって倉庫を開け、ダンボールを入口に置いてから少し埃っぽい室内に入る。
メモを見ながら目当ての物を探す。
高い場所にある目的の物を取ろうとするけど、私の背丈では届かないから、近くを見渡して端にある小さめの脚立を使う。
「よし、取れた」
慎重に一段ずつ降りる。
「誰かいんのかー?」
「へ? わっ!?」
「危ねっ!」
片方の手は塞がっていて、もう片方で脚立に手を着いてバランスを取っていたのに、声をかけられて足を踏み外す。
落ちた拍子に倒れたけど、痛みはなくて。
「ふぅ……危機一髪だな……大丈夫か?」
私が下敷きにしていたのは、水乃先生だ。
先生の腰辺りに跨るような体勢で、先生の胸に両手を置いて密着してしまっている。
「男としては嬉しい体勢ではあるけど、動けるならどいてくれるとありがたいんだが。怪我、ないか?」
先生の指が頬に触れ、後ろで結っている髪の束から零れた髪を、撫でるように避ける。
先生が触れた部分が熱を持ち、先生の体の感触を思い出すみたいで、今にも心臓が壊れそうだ。
先生から飛び退いて、私は先生に謝る。
「すみませんっ! 先生こそ大丈夫ですか?」
「俺は平気だ。それに、突然声をかけて驚かしたのは俺だしな」
立ち上がった先生が、白衣を叩いて頭を掻く。
「別に背が高い奴でも他の先生でも、これからは先に頼んどけよ? 怪我した後じゃ遅いぞ」
そう言って、また先生は私の頭を混ぜた。
「……ぃ……」
「あ? 何か言ったか?」
「先生は……ズルい……」
「何だそりゃ」
先生はきっと、私の気持ちを知っている。
でも先生は教師で、大人で、私との線引きが簡単に出来てしまう。
私は、先生と違って子供だし、周りもちゃんと見ずに突っ走る事もある。
今だって、我慢するって決めたばかりなのに、もうその決意が崩れている。
「何すっ……んっ……」
先生の白衣の襟首部分を引っ張って引き寄せ、背伸びをする。
久しぶりに触れる先生の唇は、変わらずに柔らい。
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