第54話
〔水乃逸耶 side3〕
柚菜と倉本が学校に来なくなって、数日が経つ。
家庭の事情以外で、特に何か変わった情報はなく、それを言われてしまえば、教師に詮索をする権限なんてない。
ただ、俺は確信していた。
二人は一緒にいると。
下手すれば、兄貴まで一緒にいるかもしれない。
最悪なパターンが頭を過ぎる。
倉本と兄貴が柚菜を監禁しているなら、見て見ぬふりしているわけにはいかないが、それを知るには慎重に動く必要がある。
まず俺は、綾坂に接触する事にした。
綾坂が言うには、最近の倉本は様子が変わってしまって、以前の倉本の面影がなくなってしまったと嘆いていた。
様子を見に行くと意気込んでいた綾坂に報告するよう頼み、最悪の事態に備える。
そして、俺の勘は当たって欲しくない方向で終着に向かう事になる。
倉本が兄貴を刺した。
予想していたように、倉本は柚菜を逃がさないよう嫌がる柚菜を脅して犯し、そのまま家に閉じ込め、全てを諦めた柚菜に兄貴も加わり、二人で柚菜を共有していたと言う。
そして今度は柚菜を独占したがった兄貴が、綾坂に協力を持ち掛け、睡眠薬でよく眠る倉本から柚菜を奪い、兄貴は逃亡した。
その事に気づいた倉本は、発狂し、兄貴を恨み、柚菜を探し回った。
結果、倉本は完全に蝕まれ、精神を病み、ナイフを手に取った。
綾坂は倉本に付きっきりだったのもあり、その姿を目撃し俺に連絡を入れてきた。
そこからはもうあっという間だった。
刺されて血溜まりの中倒れる兄貴を救急隊に、倉本は綾坂と警察に任せ、俺は気を失った柚菜を保護して知り合いの病院へ連れて行った。
すっかり痩せ細った柚菜のあまりの軽さに、どれだけの事があったのか想像し、眉間に皺が寄って、嫌悪で腸が煮えくり返るようだ。
一通り検査を受け、思ったより早く顔色も体調もよくなった柚菜を見て、安堵した。
倉本の事でバタバタだった事と、柚菜の安全が確保された事への安心感で、俺はその日人生でほとんどなかった、死んだように眠るという事を経験した。
問題はまだまだあるが、こればかりは時間が解決するしかない。
俺は、出来るだけ柚菜に毎日会いに行き、メンタルのケアを始め、出来る事、してやれる事は全てすると決めていた。
“教師として”なんて、そんな綺麗事を言うつもりはない。
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