第52話
〔水乃逸耶 side〕
まさか自分が、生徒に手を出すような教師になるとは、誰が想像しただろうか。
人生、教師生活、割とうまくやれていた。
昔から、何でもそつなくこなして、世渡り上手な方だと思って生きてきたし、実際そうだった。
親に感謝というやつか。
柚菜の噂は、入学式から数日してから知った。
子供の好奇心に、多少の興味だけで姿を初めて見たのは、アイツが1年の時だった。
「マジかよ……最近のガキの成長速度は怖ぇな」
高校へ上がったばっかで、幼さが残るガキばっかの中で、柚菜だけが違う生き物みたいで、その空間だけ妙に異質だった。
いい意味でも悪い意味でも、アイツは浮いていて、目立っていた。
本人は大して気にする様子もなく、他人には興味はありませんみたいな顔で澄ましていて、見た目だけじゃなく、動作の一つ一つがしなやかで、大人だった。
“高嶺の花”
こちらも、いい意味と悪い意味でそう呼ばれてる事に、本人は気づいているのだろうか。
だからといって、俺が何かするわけでも、向こうが何かこちらにというわけもなく、授業以外で特に何か接点があるわけでもなかった。
そんな日々が続いたある日、振られた男達の屍が転がっていると噂が回り始めた。
学校という狭い空間では、噂の回りは早いから、俺達教師の耳にも簡単に入って来る。
ただ、そういう事で一喜一憂出来る若さは、羨ましくある。
それから特に大きな事はなく、アイツが二年になった後、俺と柚菜に接点が出来る。
初めて話をした柚菜は、想像していた何倍も表情豊かで、年相応な部分もしっかりあって、正直教師の立場でこういうのはよろしくないが、柚菜を特別視してしまうのは分からなくもなかった。
ただ、こういう女は、苦労するだろうとも思う。
確実に女の敵を作りやすいのは、目に見える。
でも、本人は案外ボーッとしてるから、気づかないんだろうな。
そして、何より驚いたのは、彼氏の存在だ。
彼氏がいる事は別に不思議じゃない。問題はその相手だ。
“倉本明彦”
また面倒な相手と付き合ったなと思った。よりによって、何故この男を選んだのか、理解出来なかった。
優しくて爽やかで普通に真面目で、教師からの評判もなかなか。ただ、たまに見える押しに弱い意志のなさと、幼なじみの存在。
“綾坂由美”
こちらも更に厄介な相手だ。
二人の関係性、距離が近いのは誰にでも分かる事であり、これが倉本をモテなくさせている大きな原因だ。
案の定、柚菜は二人に苦しめられる事になる。
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