第十一章

第50話

退院して、数日休んでいた私は、数週間してから学校へ行く事にした。



両親や先生はゆっくりでいいと言ってくれたけど、別に体に何かあるわけじゃないし、ずっと家にいても仕方ないからと断った。



久しぶりの学校は、何も変わらないのに、何処か景色が違って見えた。



授業はさすがに出てなさ過ぎて、分からない部分もあるけど、色んな先生や姫乃も力になってくれていて、そこまで困る事はなかった。



でもそれは、授業に関してだけだった。



普段落ち着いてる生活をしていても、何がどう反応して、症状が出るかが分からない。



本当にそれが症状なのかすら、知識のない私には分からない。



廊下を歩いていて、私は曲がり角で誰かとぶつかった。



「っと、悪ぃ……大丈夫か?」



ぶつかったのは男子生徒で、外で運動でもしていたのか、着ているシャツははだけ、しっとり汗ばんでいる肌が見えた。



ぶつかった拍子によろけた私を、その男子は咄嗟に助けようと、私の腕を掴んだままだ。



「どっか痛いとかないか? マジでごめん、前ちゃんと見てなかった」



「っ……」



男子の肌から目が離せない。



彼の匂いと、感触を求めて、彼に縋り付く。



「えっ……ぁ、えっと……マジで、大丈夫か?」



私は疼くみたいな、妙な感覚の体の違和感を逃したくて、彼を見あげて両腕のシャツを握りしめる。



「あー……っと……保健室、連れてってやるから、行く?」



少し頬を赤くし、彼は私の手を取り、もう片方で私の肩に手を掛けた。



「ちょいちょいちょーいっ!」



突然現れた賑やかな声の主を、私は知っている。彰人だ。



「その子はこちらで保護しますので、お構いなく。ご迷惑をお掛け致しまして、申し訳ございません」



私に触れている男子の手をやんわりと解き、私と男子の間に立って頭を下げたのは、姫乃だった。



いなくなった男子を見て、私はその場にへたり込んだ。



「彰人、水乃先生呼んで来て」



「分かったっ!」



滲む涙を拭く事もせず俯く私の背中を、姫乃は先生が来るまでずっとさすってくれていた。



だいぶ落ち着いた頃、先生が小走りで廊下を走って来るのが見えた。



「待たせた。悪かったな、サンキューな二人共、助かった」



言って、先生が私を軽々と抱き上げた。



先生の胸に顔を埋め、私は体の奥の違和感に震えていた。

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