第47話

キスをして、貴臣のねっとりと絡み付く舌に、体が熱くなって来た時だった。



"───ピンポーン……゛



突然のインターホンに、体がビクリと飛び跳ねた。



「ん? 何だ?」



貴臣がモニターを確認する。



そこには帽子を被った男性が一人立っていて、配達だと告げた。



「柚菜、ちょっと待ってて」



私は玄関から少し離れた壁の陰から、そっと玄関の様子を確認する。



扉が開き、貴臣の驚いた声がした。



私は不思議に思ったけど、特に動く事はなく様子を窺っていた。



少しして、貴臣が顔だけこちらを見て、苦笑した後苦しそうに顔を歪め、膝から崩れ落ちて倒れる。



私は訳が分からなくて、ゆっくり貴臣に近づいたけど、その手が貴臣に届く事はなかった。



「柚……迎えに来たよ……」



「……明……彦っ……」



私の腕を掴んで、明彦が優しいいつもの笑顔で笑っていた。



けど、何故か凄く怖くて、体が小刻みに震え出す。



「ずっと兄貴に閉じ込められて、怖かったよな……。酷くされてない? 少し痩せたな……。ずっと会いたかった。抱きしめたかった。ほら、一緒に帰ろ」



被っていた帽子はいつの間にか床に落ちていて、その隣には倒れた貴臣と、そのお腹にはナイフが刺さり、床は血溜まりだった。



黒に近い赤。



こんな大量に血を見たのが初めてで言葉が出ず、足に力が入らなくなり、床にペタリと座り込む。



「大丈夫だよ。柚はこんな汚いもの、何も見なくていい。俺だけ見てればいいんだ」



目を隠され、視界が黒に染まる。



だけど、血溜まりの赤が重なり、私は気を失った。



意識が遠のくその耳に、明彦だけじゃない、数人の声がした気がした。



次に目覚めた時、私の視界には白い天井が広がっていた。



病院だと、すぐに分かった。



そして、懐かしい声。



「……お姉、ちゃん……。お姉ちゃんっ! パパーっ! ママーっ! お姉ちゃん目ぇ覚めたよーっ!」



涙をボロボロ流して叫ぶ、大切で大事な双子の可愛い家族。



そして、その声に走ってくる両親が、涙を流すのを初めて見た。



母に抱きしめられ、私の目頭も熱くなる。

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