第十章

第46話

朝食を食べ終えると、貴臣がカバンをゴソゴソ漁っている。



「ちょっと大学に用事あるから、行ってくるけど一人で平気? 長くはならないと思うけど、不安なら一緒に来てもいいよ?」



「大丈夫。ここで待ってる」



「すぐ戻る」



そう言って貴臣が額にキスをする。



「じゃ、行ってきます」



「行ってらっしゃい」



貴臣を見送って、私はあまり散らかってない部屋を掃除したり、ベッドシーツを整えたりしたけど、すぐにやる事がなくなったから、ボーッとしてても仕方ないから、勉強する事にした。



ノートにペンを走らせながら、静かな部屋に響く時計の音を聞いている。



「……そういえば、スマホがない」



普段からあまりスマホをよく使う方ではないから、特に困らないけど、メッセージは来ているだろうなと、ふと気になった。



そして、明彦を思い出す。



彼は、大丈夫だろうか。



「先生の部屋、また汚くなってるんだろうな……」



ふと思い出した先生の部屋の、大惨事を思い出して笑う。



私は、あの日常を手放して、寂しいのだろうか。



好きでも嫌いでもない学校に行って、先生と他愛ない話をしている時間は、結構好きだった。



ペンを置いて、ノートに頬をくっ付けて机に頭を置いた。



そうしているうちに眠っていたようで、鍵の開く音で目が覚めて、最初に貴臣が姿を視界に入れた私の体が反応する。



最近少しでも離れる事がなかったから、よく分からないけど体がウズウズしてきて、ジっとしていられなくなる。



私は素早く立ち上がり、走り寄って貴臣の胴に抱きついた。



「おっとっ……熱烈歓迎嬉しいねぇー……どうしたの? 寂しかった?」



私は何度も頷いた。



「そっか、ごめんな」



抱き締め返して、頭を撫でられて安心する。



頭の隅では分かっている。



今の私は、もう前の私ではなくなった。



狂ってしまった。

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