第45話
まだ暗い朝方の静かな時間に、時計の針の音が妙に大きくて目が覚める。
腕枕をされ、逃がさないように貴臣に抱きすくめられている。
間近で見る彼の顔は、眠っていても綺麗だ。
喉が乾いたし、シャワーも浴びたい。
けど、なかなか離してもらえず、動けない。
少しだけ強めに体を動かすと、身動いだ貴臣の腕の力が抜ける。
その隙に、出来るだけ静かに腕からすり抜け、ベッドから無事に脱出する。
だいぶ使い勝手が分かってきた部屋を歩き、着替えを持ってバスルームへ向かう。
熱いシャワーが、汚い私も纏めて、全てを洗い流してくれたらどれだけいいだろう。
少し長いお風呂タイムになってしまい、のぼせた頭がボーッとして、脱衣所を出た時の冷気が気持ちいい。
体を拭いて、洗面台の無駄に大きな鏡の前に立つ。
髪の水気を拭き取りながら、以前よりだいぶ痩せた自分の姿に、苦笑する。
「ちゃんと、食べなきゃ……」
痩せ過ぎたら、抱き心地が悪くなるから。
貴臣に抱かれなくなったら、困るから。
ドライヤーを止めて、着替えを済ませてバスルームを出る。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、乾いた喉に流し込むと、まだ暑さの取れない体に染み渡る。
「はぁ……」
「水飲んだだけで、なんでそんなエロいかねぇ、まったく困るよ、この子は……」
「ぁ、んっ……」
後ろからお腹に腕が回され、首筋にキスが落ちる。
「起こしてくれたら、一緒に入ったのに」
「よく、寝てたから。起こすのも悪いかなって」
「別にいいのに。どっちかって言ったら、起こしてくれた方が安心なんだけどね」
「何で?」
「んー? 柚菜ってちょっと目を離すと、パッといなくなりそうだから。まぁ、心配なんですよ」
心配なんて、何もないのに。
この状況で、明らかにいなくなるのは私ではなく、自由な貴臣の方だろう。
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