第36話

〔綾坂由美side 3〕



お兄さんが私の隣にしゃがみ込む。



「まだ明彦の事、好き? 諦められる?」



無理に決まってる。



あんなのを見た後なのに、まだ好きなんだから笑える。



「ずっと、明彦だけを見てきたのよ。諦めるなんて選択肢、ハナからないわよ」



そう。私には、明彦が全てなんだから。



「そう。じゃ、共犯になってもらおうかな」



「……は?」



「由美ちゃんは明彦を手に入れたい。俺は柚がどうしても欲しい。まぁ、今はちょーっと変な感じになっちゃってるけど。俺ね、実は柚を独り占めしたいんだよねぇ」



どいつもこいつも、何であんなビッチがいいんだ。



ただ美人てだけで、後から出て来て私の欲しい男を簡単に手に入れるなんて、絶対に許せない。



「協力、しない?」



私は考える事すらせず、速攻で頷いた。



幸い、明彦はまだ私が体の弱い子だと信じて疑わないから、明彦を足止めしておくのは簡単だ。



冷たい事を言って突き放していても、人の根っこはそう簡単には変わらない。



こっちだって必死なんだから、手段なんていちいち選んではいられない。



明彦は返してもらうから、絶対に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る