第35話

〔綾坂由美side 2〕



聞きたくも見たくもないのに、そちらに視線を向けてしまう。



ベッドに仰向けになって寝転がる明彦に、乱れて制服の意味を成していない姿で跨る女。



木鷺柚菜。



腰を振り、喘いでいる姿は、正直女の私から見ても妖艶で、悔しいけど綺麗だった。



「明彦ー、止めたんだけど入って来ちゃったわ。由美ちゃんが話あるってさ」



慣れたようにお兄さんが二人に近寄る。



「由美? 何? 俺今手、離せない。ほら、柚っ、三回目っ! 出すよっ……」



私を横目にチラっと見ただけですぐ目を逸らし、再び腰を揺らし始める。



木鷺さんは私が見えていないみたいに、ただ喘いでいる。



「まぁまぁ、そう冷たくしてやんなよ。ほら、柚ー、明彦は用事あるから、とりあえずこっちおいで……はい、お水飲もうな」



明彦から離された木鷺さんは、お兄さんに抱き上げられ、そのままお兄さんの上に跨って座る。



意味が分からず、私はただそれを呆然と見ているしかなくて。



「お口あーんしてー。うん、いい子」



お兄さんに言われるがまま木鷺さんは、その小さな口を少し開け、お兄さんがペットボトルの水を口に含み、あろう事か、木鷺さんに口移しで飲ませ始めた。



「で? 話って、何?」



「へ? あ、明彦……あれ、どういう事? 木鷺さんは、明彦と付き合ってるんでしょ? 何で、お兄さんと……あ、あんな……」



私はまだ目の前で行われている事が信じられず、水を飲み終えているはずの二人が、いまだにキスをやめない姿から目が離せずにいる。



「それ、由美に説明する必要ある? それだけ? なら悪いけど、帰って」



「んっ……別に次俺だから二人でゆっくり話してきたら? 柚も早く俺に挿入れて欲しくて、腰揺らして誘っちゃってさ……俺ので擦られるの好きだもんなぁ、柚は。あーあ、ほらほら、もう待てないねぇ? んー? はは、可愛い……」



心底楽しそうなお兄さんと、何も話さない木鷺さんが妙に歪で、それを不満そうに見る明彦。



この異様な光景が、私には見ていられなくて、明彦の腕を掴む。



「明彦っ、ねぇ、どうしちゃったの? こんなの変だよ……」



「由美には関係ないだろ。俺達は俺達のやり方があるし、由美が口出す事じゃない」



「明彦、目を覚ましてよっ! そんな簡単に他の男と寝るようなビッチの何がいいのっ!?」



「やめろ。それ以上柚を侮辱するなら、いくら由美でも許さない」



「明彦っ……」



「もう、帰ってくれ。それと、頼むから今後俺達の事は放って置いて」



目の前であっという間に閉まる扉。



中からは、再び木鷺さんのいやらしい声が聞こえ、私は少しの間、そこから動けずにいた。



涙が、ゆっくり頬を伝い、床を濡らした。



私の知っている、ずっと好きだった明彦は、もういないのだと思うと、たまらなくて苦しい。



一人の女に狂わされて行く、大好きで大事な幼なじみの傍で、無力な私は何も出来ない。



やっとの思いで玄関まで来たけれど、なかなか帰る事が出来ず、座り込む。



「おや、まだいたの? 大丈夫? だから止めたのに」



何故か楽しそうなお兄さんに、苛立ちが募って睨みつける。



「何が面白いのよ」



「おー怖い顔。前々から言おうと思ってたんだけとさ、幼なじみだからって、踏み込んでいい深さってのがある事、理解した方がいい」



分かってる、そんな事。

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