第六章
第28話
移動教室の後、教科担任に用事を言いつけられた姫乃と別れ、私は教室へ戻ろうと渡り廊下を歩いていた。
「おっ! 柚菜ー、あれ? 姫は?」
「彰人、姫乃なら今、用事させられてるよ」
「あー、姫はそういうの真面目にやるからなぁ。ちょい行って来るー。またね」
「うん、またね」
無邪気に大きく手を振る彰人を見送り、私は廊下を歩き出した。
はずだった。
「今の男が、言えない男?」
「へ? っ!?」
耳元で囁かれ、振り向く暇すらなく後ろから抱きしめられたと思ったら、突然体が浮いたまま移動していて、何が起こったのか理解出来ず、ただ、その原因が明彦なのだという事だけは分かった。
「ちょっと、やだっ! 明彦っ! 離しっ……」
「黙っててよ。俺今すげぇ機嫌悪いから、何するか分かんないよ?」
聞いた事のないくらい低く重たい明彦の声に、体が強ばる。
人気のない校舎裏。
今はほとんど使われていない、埃っぽい倉庫に連れ込まれる。
恐怖が広がり、体が震えた。
古い跳び箱に座らされ、私を囲うように明彦の体が密着して動きを封じられる。
「あんな一方的な別れの言葉で、俺が引き下がるとでも思った? 柚は俺の気持ちを舐め過ぎでしょ」
「あきっ……」
「しっ! 俺が聞いた事だけに答えて。後は黙ってて」
人差し指を私の唇に当て、そのまま下唇を親指でなぞられる。
「で? 言えない相手って、さっきの奴なの?」
「ち、違うっ、彼は、最近出来た友達の彼氏」
「じゃぁ、あの電話でのいやらしい関係の相手は、誰?」
「い、言わないって、言ったでしょ……」
いつもの優しい明彦は何処へ行ってしまったのか。全くの別人なんじゃないかと疑ってしまいそうになるほど、目の前にいる明彦は、恐ろしく静かで、暗い。
「そいつ、上手いの?」
「……ぇ?」
「満足させてくれるから、何処ででもエロい事すんの?」
「な、に……言って……」
「答えろよ。俺より気持ちよくさせてくれるから、学校ででもヤるんだろ? さっき、すっげぇいい声で啼かされてたもんな?」
明彦が笑う。
目は笑ってない。
怖くて、何も言えない私の太ももから、スカートの中に手を入れてくる。
「明彦っ、やだっ、やめてっ……」
「何で? 俺よりそいつのが気に入った? だから俺を拒んで、俺から離れようとすんの? なぁ、柚菜……聞いてんだから、答えろよっ!!」
怒鳴りながら、跳び箱を思い切り殴る明彦に、身を縮める。
「あ、ごめん、怖かったよな? でも、柚が悪いんだろ? 質問に答えないで、俺を拒んで、俺から離れようとするから……ほんと、柚は悪い子だね」
明彦はゆっくり自らのネクタイを外して、後ろで私の両手を拘束した。
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