第26話
その答えは、先生の言葉ではっきりする。
「いくら好きな奴がいても、欲ってもんはそう簡単に消せるもんでもない。大人でも浮気するやつはするしな。頭と体が必ずしも同じ動きをするとは限らないってな」
「俺は姫一筋だからっ!」
「わ、分かってる、わよ……」
照れる姫乃に、満足そうな彰人。
これが理想な恋人像なんだろうな。
「みんなお前みたいな奴ばっかなら、誰も苦労はしないんだろうけどな」
先生がどこか諦めたみたいな顔で笑う。
その時、私のスマホが鳴り、表示される名前にビクリとする。
“明彦”
朝から出来るだけ接触しないようにしていたからか、向こうが痺れを切らしたのか、何度も連絡が来る。
何度目かの連絡の後、未読のメッセージがまた増える。
「見れないなら、見てやろうか?」
「え?」
「怖いんだろ? 見るの」
私は、怖いのだろうか。
彼が、どんな風に豹変しているのかを、見るのが。
私は先生みんなに断りを入れ、部室から出て深呼吸をしてからスマホを操作する。
その瞬間、再び震えるスマホに驚いた拍子に、通話ボタンを押してしまった。
スマホから、微かに声がする。
恐る恐る耳に当てる。
手が、震える。
『柚?』
妙に落ち着いた声が、優しい声が、何処か怖い。
『今、どこにいるの? ちゃんと、話したい……』
「話なんて、ない……」
『柚っ……俺、別れたくない……。柚を、失いたくないんだ……』
震える明彦の声が、耳を刺激する。
言葉が、出ない。
スマホの向こうからは、名前を呼ぶ弱々しい明彦の声。
「っ!?」
「声、我慢すんな……」
「何……あっ、んっ……」
後ろから抱きすくめられ、首筋を舐め上げられる感覚に、ゾクリと痺れる体に、自然と声が漏れた。
完全に、聞こえたのだろう。明彦の絶句する様子が分かる。
『……柚っ、何でっ……他の奴にそんな声っ……柚っ!』
「ほら、もっと聞かせてやれ」
「やっ、ダメっ……んぁっ……」
太ももを撫でられ、制服の上から胸の突起を引っ掻かれる。
『柚っ! 止めてくれっ……柚は……俺の、だろっ! 柚っ、柚っ……』
「明、彦っ……ごめんね。私は……もう、貴方の好きな柚じゃないんだよ……」
『嫌だっ! 柚っ! 柚菜っ!』
「あぁっ……」
別れ話をしながら、違う男からの快楽に身を委ねるなんて、最低で、最悪な彼女だね。
だから、私の事は恨んでいいよ。
さよなら、明彦。
私は喘ぎの混じった別れの言葉を明彦に伝えた後、彼の声を最後まで聞かずにスマホの電源を落とした。
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