第五章

第24話

軽率。



この言葉が一番しっくりくる。



同じ制服の男女の生徒がこちらを見て立ち止まっていた。



「先生おはようございます。あなた木鷺さんよね? おはよう」



「え、あ、うん、お、おはよう……」



「お二人さん、おはおはーっ! てか、二人って付き合ってんのっ!?」



「だから彰人、声デカいしうるさい」



「いってっ! 頭叩くなよぉー」



女子の方が先にこちらへ歩いて来て、普通に挨拶をされてこちらも釣られて返事を返す。



遅れて、彰人と呼ばれた男子の方も賑やかに近づいてきたけど、女子に頭を思い切りフルスイングされ、後頭部を撫でながら抗議している。



「少ないとはいえ、他の生徒もたまに通りますので、あまり堂々とされるのはオススメしませんよ、先生。木鷺さんも、あまり先生のご迷惑にならないよう、周りを確認してからの方がいいよ」



「え、あ、はい……ごめんなさい……」



先生と二人で女子に注意を受けて謝罪した。



「こんな所で立ち話していても仕方ないですから、とりあえず学校へ。昼休みにミス研の部室集合という事でよろしいですか?」



テキパキと話を進める女子に、私達はただ返事をする事しか出来ず、とりあえずは解散した。



はずだった。



「……え?」



「どうかした? あぁ、同じクラスなの知らなかったの? ま、私目立つほうじゃないから仕方ないね。うるさい彰人もいないしね」



文庫本を開き、メガネをクイっと指で上げてこちらを見上げたのは、先程会った女子だった。



あまりクラスメイトと仲良くしていなかった私は、どんな人がいるのかあまり知らなかったから、まさか同じクラスだったとは。



「あぁ、心配しないで。私何でもかんでもペラペラ喋るタイプじゃないから」



それだけ言うと、彼女は文庫本に視線を戻した。



「あ、りがと?」



「ふふふ、あなた、なかなか面白い人ね。改めて、私は糸屋姫乃いとやひめの。よろしく」



「あ、木鷺柚菜です。よろしく、糸屋さん」



差し出された手を握る。



「姫乃でいいよ。あまり自分に合っているとは思わないから、名前には納得いってはいないけど、尊敬する祖母が付けてくれた名前だから気に入ってはいるの」



「そう? 割と合ってると思うよ。凛としてる感じとか」



私が言うと、少し驚いたような顔をした姫乃が、すぐに嬉しそうな柔らかい笑みを浮かべた。



「ありがとう。やっぱりあなた、いい人ね」



やっぱりと言われて不思議に思ったけど、彼女が嬉しそうだから受け入れる事にした。

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