第20話

マグカップを置いて、先生は私に体ごと向き直る。



「で? どうしてこうなった?」



私は先生に明彦との一連のやり取りを説明して、お兄さんとの事を話した。



先生はどんどん眉間に皺を寄せて、不機嫌になっていく。



「はぁー……お前さぁ……何でそう自分を大事にしないかね」



「別に大事にしてない訳じゃないです」



「じゃ、蹴飛ばすとか何か出来ただろ」



「でも、知らない男ならまだしも、明彦のお兄さんだし……」



「兄だろうが父だろうが弟だろうが関係ないだろ。お前の身が優先だ」



怒られてしまった。



先生のため息が聞こえる。



「で? お前は俺に出会わなかったら、その兄貴とも関係を持つつもりだったのか? 逃げようと思えば逃げられただろ」



「……もう、正直どうでもよかったので……。考えるの、疲れちゃって……」



息を吐いて、自傷気味に笑って私は先生を見た。



「先生、私……これからどうしたらいい?」



明彦を説得する方法も、別れ方も、何も分からない。



先生は黙って私に近づいて、そのまま私の頭を引き寄せた。



先生の肩に頭を乗せるみたいに抱き寄せられ、頭を撫でられる。



「今は何も考えず、とにかく寝ろ。帰るなら送ってくし、一人になりたいならホテルでも用意してやる」



「ここにいちゃ、ダメ?」



「っ……駄目じゃ、ねぇけど……。そういや、お前、親は大丈夫なのかよ」



忘れていた。



言われ、私は友人の家に泊まって、朝早くに帰って学校へ行くと連絡を入れた。



幸い、我が家は両親共働きだから、忙しい親は割と自由だったりする。



「とにかく必要なもんは買って来てやるから、今のうちに風呂入って頭スッキリさせろ」



確かに、明彦と体を重ねてそのまま来たから、少し体が気持ち悪い。



素早い動きでテキパキとお風呂の準備をした先生が、部屋を出ていく。



私はお風呂のアナウンスが聞こえるまで、ソファーに横になっていた。



瞼が重いけど、気持ち悪い体のまま眠るのは嫌だ。



少し眠気と戦っていると、アナウンスが聞こえたのと同時に先生が戻って来る。



「丁度だな。ほら、寝ちまう前にさっさと入って来い」



横になる私の頭を優しい手つきで撫でる、先生の手を掴む。



「一緒に入る?」



「っ……アホか。ほら、さっさとしろ、ガキ」



「ガキとエッチな事してるくせに」



「うるせぇ、エロガキ。今日みたいな露出高い服は今後禁止だ。分かったな?」



私は先生にワザと見せつけるように、胸元が大きく開いた服が見えるみたいに、上着を腕くらいまでズラした。

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