第四章
第19話
お兄さんと別れ、次に私は先生に手を引かれて来た道を帰っている。
次から次へと忙しい。
先生は何も言わない。
「先生、怒ってる?」
私が聞いても先生は何も答えない。
「ねぇ……先生ってば。先生」
「黙ってろ」
不機嫌な声。
急に不安になる。
「先生……ごめんね、迷惑掛けて。面倒なの嫌いなのに……」
私が続けると、先生は歩みを止めて、顔だけこちらを向けて私を見る。
「俺はそういう意味で怒ってるんじゃない。とにかく黙って着いて来い」
私は先生の言葉に従って、先生の後を黙って着いて行く。
何処へ行くんだろうとか、親に連絡しなきゃとか、色々考えながらも、何もしたくなくて。
明日から明彦とどうしたらいいのだろう。
彼は本当に別れる気はないのだろうか。私はこんな汚いのに、見て見ぬふりで付き合っていけるのか。
綾坂さんに会わずに、関わらずになんて絶対不可能なのに。
考えていると、先生が一つのマンションに入って行く。
豪華なマンションだなぁと見ていると、先生はどんどん進んで、エレベーターに乗った。
先生より少し後ろに立って、先生を盗み見る。
「倉本に兄貴がいたとはな。しかも何がどうなってお前と兄貴が如何わしい関係になろうとしてんだ。ちゃんと説明しろよ?」
「しますけど……どこからすればいいか……難しいです」
面倒が嫌いなくせに、私のような一生徒の為に親身になる所は、やっぱり先生はちゃんと“先生”なんだな。
エレベーターを降り、先生は一室の前で止まり、鍵を開けて中に入った。
暗い部屋に明かりが点いて、眩しさに目を細めた。
「コーヒーでいいな」
「はい」
先生の部屋であろう場所を、キョロキョロと見回した。
シンプルで物も最低限で、でもやっぱり部分的に散らかっているのが気になった。
広く長い廊下を通ってたどり着いた広いリビングに、先生のいるキッチン、そして部屋が二つ。
床に散らかった紙類を片付け、落ちているゴミをゴミ箱へ入れる。
「こんなとこまで来て、片付けなくていい」
「気になるんで。先生ってお金持ち?」
「あ? そうでもねぇよ。ほら、こっち来て座れ」
促されたソファーに腰掛けると、コーヒーを渡される。
いい香りのコーヒーを一口飲むと、複雑だった気持ちがゆっくり落ち着いてくる。
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