第15話

その後、私は明彦に数回抱かれ、その最中ずっと愛を囁かれ続け、それでも私は何も言わなかった。



言えなかった、の間違いだったのかもしれない。



汗だくになり、息も絶え絶えになりながらも、明彦が私を抱きしめて離さない。



「柚……どうしよ。俺、柚をこのまま帰せる自信ない……」



「クスっ、あれだけシたのに、凄い元気だね」



「柚相手なら、俺全然足りない……」



綾坂さんなら、と聞き返しそうになるのをグッと堪える。



「柚ー……なぁ……もう一回だけ、駄目?」



さすが若さと言おうか、底なしだ。



「本当に一回で終われる?」



「が、頑張り、ます……」



私も彼とお別れするのを、少し寂しく感じているのだろうか。



もちろん、明彦を純粋に好きだったのは本当だったし、綾坂さんとの事を知って、怒りが湧いたのも本当だ。



付き合わなければよかったのか。出会わなければよかったのか。



もう、私には分からない。



一回と言っていたのにも関わらず、実際は三回も追加された私は、ぐったりしていた。



そんな私を至近距離で、優しい笑みを浮かべて見つめ、髪を撫でている明彦。



彼はこの後、私が別れを切り出したら、どんな反応をするんだろう。



「満足、した?」



「とりあえず、は。でも多分、まだいける」



「元気過ぎ」



「だって、好きだから」



じゃぁ、何故貴方はあの子と私より先にキスをして、先に体を重ねたの。



誤魔化すみたいに、私は辛い体を起こした。



「柚?」



「そろそろ帰らなきゃ」



同じように起き上がり、少し焦りを見せる明彦に背を向け、服を探す。



そんな私を明彦は後ろから抱きしめる。



「柚……帰んないで……」



「無理言わないで。明彦だって、ご家族帰って来ちゃうでしょ」



「離したくない……」



寂しそうに言った明彦の腕をやんわり解いて、身支度を整える。



仕方なくといったように、明彦も服を着る。



外はもう夕方になっていて、ただ彼に抱かれに来ただけの関係のようで、明彦に分からないように苦笑した。

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