第三章

第14話

服を脱がせる手は、緊張しているようで動きは硬いけど優しいのは変わらない。



「柚が俺のベッドにいるとか……何のご褒美だよ……」



「ふふ、ほんと大袈裟だなぁ明彦は」



少しづつ私の肌が露になるにつれ、明彦の興奮が激しくなるのが分かる。



「あんまりじっと見ないで……」



「やだ。見たいし、堪能したい」



「クスっ、何かその言い方ヤダ」



明彦、私今、うまく彼女を演じられてるよね。



もうこれで最後だから。



こんな辛い恋愛、いや、恋愛にもなっていない“恋愛ごっこ”は終わらせなきゃ。



これ見よがしに付けられた、彼の気づかない首の後ろのキスマークを隠すように、そっと底に手を置いた。



「んっ、ふぁっ……ンんっ……」



「想像してたより、すげぇエロい声……たまんねぇ……」



「ぁ……想像したの?」



「そりゃ、するよ……ずっと柚とこうなりたかった」



興奮を隠す事をしなくなった彼の雄の目が、ギラリと揺れた。



明らかに“練習”したであろう、初カノとの行為での慣れた手つきに、笑えてくる。



「何? 何か変だった?」



「ううん、幸せだなぁって」



嘘。



これの何が幸せなのか。



こんな、嘘と隠し事ばかりの行為に、どんな幸せがあるのか教えて欲しい。



明彦は、本当に私の体を堪能するかのように、じっくりたっぷり時間を掛けて触れる。



丁寧で優しい手つきが、彼の愛情を示すかのようで、私はそれに気づかないフリをする。



綾坂さんも、こんなに優しい触れ方で抱いたのかと、言ってしまいそうになるのを、キスで塞いだ。



明彦は、何度彼女を抱いたのだろう。



「柚……大丈夫? 痛い?」



「ぅうん……大丈夫っ……」



明彦、痛いよ。



だから早く、こんな虚しい事は、終わらせよう。



涙を優しく拭われて、微笑み貴方が憎い。



「柚っ、やばっ……凄っ、よすぎてっ、腰……止まんなっ……あっ、柚っ、柚っ、好きだっ……ぅ……」



「んっ、あぁあっ……」



欲を放った後、明彦が幸せそうにうっとりした顔で笑った。

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