第11話

少し早い時間ではあるけど、駅で明彦を待つ。



ナンパは慣れたもので、無視を決め込みながらスマホを取り出して、明彦に駅に着いたと連絡を返す。



何度目かのナンパを無視した時だった。



「柚っ! ごめん、待たせたっ!」



スマホを鞄に入れ、そちらを向くと私服の爽やかな明彦が手を振っている。



私の前に立って、息を整えている。



「大丈夫? そんなに急がなくてもよかったのに。ほら、汗」



しっとり汗が滲む額に、取り出したハンカチを当てる。



「柚……今日めっちゃ可愛い。あ、可愛いのはいつもだけど、いつも以上に何て言うか……」



「ふふ、ありがとう」



少し赤くなる明彦の、揺れる目線が何処にあるかくらいは分かる。



私もそれを意識して服を選んで来た。なるべく露出を高くしたのだ。



触れやすく、脱がせやすく。



差し出された手を取り、私達は歩き出した。



何気に、彼の家には初めてお邪魔する。



柄にもなく、少しだけ緊張していたりする。



こうして何気ない話をしながら歩く私達は、客観的にみたら、やっぱり普通の仲良しカップルなのだろう。



お互いが、何をどう考え、何を隠しているかなんて、本人にしか分からないのだ。



明彦の家は、一軒家でふと何気なく隣を見ると“綾坂”と書いた表札が見えた。



それを見て見ぬふりして、中へ促されて脚を動かす。



本当に誰もいないようで、部屋は静かだ。



「お邪魔します」



手は繋いだまま、入ってすぐ右手にある階段を登る。



「手前が兄貴の部屋で、俺の部屋はこっち」



「遊んでるイケメンお兄さん?」



「うん、覚えてた?」



いたずらっ子みたいに笑う明彦に、釣られて笑う。



明彦にはお兄さんがいて、イケメンだからモテるらしく、しょっちゅう女の子が変わる遊び人らしい。

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