第10話

〔明彦side 2〕



健康な男子高生としては、先に進みたいのは確かだ。



けど、あまりがっついてもダメだと思ってしまって、どうしても歩みが遅くなってしまう。



「練習、する?」



「……は?」



由美の言葉に、困惑しかなくて由美を見つめる。



「お前、何言って……」



「キスの経験あるの? もし失敗して嫌われてもいいの?」



何を馬鹿なと思いながらも、俺は柚に嫌われると言った由美の言葉に、簡単に弱さを突かれてしまったのだ。



そして、俺は誰より大事にしていた柚を、裏切ったのだ。



最初は軽いキス。



「彼女を想像してていいから」



そう言われ、多少なりとも興奮していた俺は、由美の唇に夢中で食らいつき、貪ってしまった。



それ以来、何度か“練習”と称して、由美とキスをした。



柚にあんな顔、して欲しくなかったのに。



俺は最低だ。



その後の柚は、少し距離を取ったものの、こんな最低な俺を許してくれて、好きだと言ってくれた。



そんな柚を、俺はまた裏切ったんだ。



今度こそ、きっと柚は俺を決して許さないだろう。



誘ったのが自分じゃないとはいえ、それに乗った自分が最低なのも、それが分かったうえで、まだそれを止められない自分がクズなのも理解している。



「あっ、明彦っ……んっ、ぁあっ……ぁ、彼女の、名前っ……呼んで、ぃい、よっ……」



「柚っ、柚っ……ゆっ……も、出るっ……んぅっ……」



愛おしくて、大切な彼女に会う前日ですら、俺は意味があるのかも分からないこの“練習”を止められないでいる。



ベッドで裸になって眠る、彼女じゃない幼なじみを横目に見て、俺は毎回襲いかかって来る罪悪感に、部屋の隅で膝を抱える。



「柚っ……ごめん……柚っ……」



なのに俺は、美人で色気があってみんなが憧れる高嶺の花で、愛おしくて大切な彼女を抱けるかもしれないと、どこかで期待している。



あの綺麗な肌を撫であげて口づける事を想像しただけで、自分の醜い雄が熱を上げた。



彼女とは似ても似つかない、幼い顔の幼なじみが眠っているのを気にする事もせず、俺は昂った己の欲を突き入れた。



汚い自分の見たくない部分に蓋をするように、夢中で腰を振っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る