第二章

第9話

〔明彦side〕



物心ついた時から、俺には女の子の幼なじみの由美がいて、可愛いけど体が弱くて、か弱いからずっと俺が守ってやらなきゃって大切にしてきた。



恋愛感情は特になくて、どちらかと言えば“妹”みたいな感覚だった。



由美は昔から俺にべったりで、気づけば高校になった今でも二人ずっと一緒にいる。



だからか、俺は由美のお願いとか涙、とにかく由美からの押しに弱いのは自覚していた。



友人に「また幼なじみかよ。お前そんな優柔不断で、振り回されてて大丈夫かよ」と言われた事もある。



そんな自分を好きではなかったし、やめなきゃと思うのに、十数年で俺の中に刻まれたものは、割とデカかったようだ。



そんな中、俺は柚に出会った。



一目惚れから始まって、今まで特に積極的に女の子に関わりに行く事はなかった俺は、すぐに柚に声を掛けた。



彼女は凄く美人で色っぽくて大人で、他の女子とは何もかもが違っていて、魅力的過ぎた。



初めて柚が俺の言葉に笑ってくれた時には、その日一日ずっとニヤけてしまって、気持ち悪かったと思う。



他の男に取られるのが嫌で、俺はすぐ柚へ告白した。



どれだけ時間が掛かっても、何度告白する事になっても構わない。



そんな覚悟でした俺の告白は、すんなり受け入れられた。



もちろん驚いたのは俺だけじゃない。



ライバルだらけなのは知ってたし、誰しもが俺の告白が上手くいくわけないと思っていたに違いないから。



友人に「お前幼なじみとデキてたんじゃねぇの?」と言われまくったけど、俺は言われる度に「妹みたいなものだ」と返していた。



そう答えるのに疲れていたから、柚との関係が知れ渡ったのはある意味有難かった。



由美には何故柚なのかと聞かれたけど、柚が欲しかったからとしか答えが見つからなくて、言葉を濁した。



自分の気持ちの半分は、下心と周りへの優越感みたいな不純な動機だったのかもしれない。



お前等の憧れだった“高嶺の花”は、俺の彼女なんだと。



クールで大人な印象の柚は、付き合ってみると意外に感情豊かで、表情もコロコロ変わるから可愛い。



俺がする話は、ちゃんと黙って聞いてくれるし、笑ってくれるから、楽しくて仕方ない。



最初の頃はよかった。



少し経つと、俺と柚の時間を由美が割り込んでくる事が増えてきた。



少し煩わしさのようなものを感じていたけど、それを断れない自分にも腹立たしさがあった。



申し訳なく謝る俺に、柚はいつだって笑って送り出してくれた。



俺は、そんな柚にどんどんハマっていって、ほとんど怒らず許してくれる優しい彼女に、甘えてしまっていたのかも知れない。



そんな俺の隙のようなものに、由美がすんなり入り込む。



「まだキスもしてないの? 優しいのもいいけど、あんまり手を出さな過ぎるのもよくないよ。彼女さん、待ってるかもしれないよ?」



確かに、付き合ってだいぶ経つけど、いまだに清い交際というやつが続いている。

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