第7話

退屈な授業をぼんやりとしながら受けて、休み時間にトイレに向かう。



鏡の前で手を洗う私の背後に、誰かが立つ気配。



「ねぇ、木鷺さん、ちょっといい?」



数人の女子が私を囲むみたいに背後に立っている。



誰か分からない。



その後ろに、見知った顔。



「あんたさ、いつまで倉本君と付き合ってるつもり?」



突然何だ。



「別に倉本君の事好きじゃないでしょ? 当てつけみたいに由美の邪魔してさぁ」



「由美が倉本君の事好きなの知ってんだよね? さっさと別れてくんない?」



口々に勝手な事ばかり言われ、綾坂さんはまるで被害者のように泣く。



その涙が嘘なのは、私を責めるのに忙しい彼女達には分からない。



ほら、笑う口元が隠せてないよ。



「わざわざ他人の事に口出して来るとか、暇なの?」



「は? お前何様なんだよ」



「あんたらこそ何様? 私が誰と付き合おうと、関係ないでしょ? 綾坂さんもお友達に頼ってないで、自分の事くらい自分でどうにかしたら?」



驚いた顔でこちらを見た綾坂さんを、まっすぐ見つめる。



「人の邪魔してるビッチが、偉そうな事言ってんじゃねぇよっ!」



思い切り突き飛ばされ、転んでしまう。



「あんた汚ない女だからさぁ、綺麗にしてやるよ」



何処から持ってきたのか、バケツを手にこちらに近づいて来て、逆さにした途端に私の頭上から大量の水がかけられた。



冷たく滴る水と、耳を刺すような汚い笑い声。



汚いのは、私も同じか。



彼女達がいなくなった後も、私は動く事はしなかった。



そもそも、こんな事までされて、明彦と付き合っていける程に、私は彼を好きなのだろうか。



「……面倒くさくなってきたな……」



そもそも、恋愛が向いてないんじゃないだろうか。



先生が色々面倒だと言っていたのが、よく分かる気がした。



乾かないままの制服を軽く絞って、濡れた状態で廊下を歩く。



授業中だから、特に誰かに見られる事はなかったけど、幸か不幸か前から人が歩いて来る。



白衣を着てスリッパを引きずりながら、ダルそうに本を肩に当ててこちらを見た。



「……は?」



誰にも会いたくなかった。今は特に、この人には。



呆気に取られた顔から、不思議そうな、焦りみたいなものが見える顔をしながら、こちらに小走りをして近寄って来る。



「お前、何してんだよ……どういう状況だ、こりゃ」



いいながら、白衣を脱いで私の頭から被せる。



「白衣、濡れるよ?」



「アホ。んな事どうでもいいだろ」



どうでもいいのか。



被せた白衣の頭の部分に手を当てて、強制連行される。



いつもの部屋に入れられ、すぐに出て行こうとする先生に「服脱いどけ」とタオルを渡された。



タオルで髪を拭きながら、服をゆっくり脱ぎ始める。



下着姿になったところで、扉が開く。



「……っ……これ着とけ」



ジャージを渡され、ジャージを見た後に先生を見る。



「わざわざ取って来てくれたの?」



「あぁ、予備のジャージだ。新品だから汚くねぇぞ。ほら、さっさと着ろ、風邪ひく」



ブラを外す私に、先生が焦りの声を出す。



「おまっ、何してんだっ……」



「え、だって、濡れてて気持ち悪いし……てか、裸なんて、今更じゃん……」



「そういう問題じゃねぇだろ……」



「ブラくらいでそんな騒がないでよ。パンツも脱ぐんだし」



私がそう言うと、大きなため息を吐いて先生が頭をガシガシと掻いた。



先生が新しい白衣を取り出して全裸のまま着させられ、そのまま待てと言われてまた部屋から消える。



仕方なく、髪をタオルで再び拭きながらソファーに座って待っていると、先生が何か袋を手に戻って来て固まる。



「……何?」



「何か……その格好は、妙にエロいな……」



「変態」



言った私に近づいてきた先生が、私の座るソファーの背凭れに両手を、座る部分に膝をついて私に挟むように迫る。



「せっかくだし、そのエロい格好のまま食っていい?」



「……エロ教師」



そのまま押し倒され、唇が塞がれた。

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