第一章
第5話
先生と体を重ねた日から二日目、廊下で明彦と綾坂さんと鉢合わせてしまう。
「柚……」
相変わらず綾坂さんは私を睨みつけている。
その手は、明彦の服を掴んでいて、私は初めて自分の性格の悪い部分を知った。
明彦が綾坂さんの掴む腕など気に止めず、私に近づいてくる姿に笑いが起きる。
今まで、私は何を遠慮していたんだろう。
私は明彦の彼女なのだから、綾坂さんに遠慮する必要はなかったんだ。
「俺、格好悪いとこ見せたくなくてさ……そんなつまらない事くらいで、柚の事裏切って傷つけて……最低だよな……謝って許してもらえる事じゃないってのも分かってる。でも俺、別れたくない」
明彦が、償う為なら何でもするからと、私に縋り付く。
それを、くやしそうに見つめる綾坂さん。
笑えてくる。
俯く明彦の頬を包み込んで、自分の方を向かせ、綾坂さんに見えるように唇にキスをする。
綾坂さんの目が見開かれる。
彼女という立場を利用する優越感。
「私もごめんね。ねぇ、私の事、好き?」
質問の答えなんて、聞かなくても分かっている。
これは、彼女への牽制と当てつけだ。
「もちろん、好きだっ!」
必死に言う明彦の首に腕を回した。もちろん、綾坂さんから目を離す事はない。
目を逸らして走り去る綾坂さんを見送り、明彦から体を離した。
先に仕掛けてきたのは彼女なのだから、私は全力で仕返しをしよう。
明彦が欲しいのなら、全力でくればいい。
もちろん、明彦のした事を許したわけでも、嫌悪がない訳でもない。
でも、私がしている事がそれ以上に汚い事だと自覚しているから、責める事などしない。
いや、出来るわけがなかった。
責められるのは、私だ。
先生に恋愛感情を持っているわけでもないし、わざわざリスキーな事をしてまでそこへ行く理由なんて、今の私には分からない。
明彦を裏切って、傷つけるって事も、どれだけ危険な事をしているかも分かっているつもりだ。
なのに、私は先生の所へ行く事をやめる事はないだろう。
教師と生徒で、体だけの関係で。
そんな禁断の関係を、少し楽しんでしまっているのかもしれない。
私はきっと、思っている以上に子供なのだ。
明彦と二人で校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下を歩く。
前からダルそうに欠伸をしながら歩いてくる教師。
目が合って、特に言葉を交わす事なく、明彦と二人で軽く頭を下げてすれ違う。
その瞬間、一瞬だけ私の指に絡められた、細くて長い大人の指。
ゾクリとした感覚が、体を走り抜けた。
心臓が波打つ。
そして今日も、私は先生の元へ行く。
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