第2話
昼休み、明彦はまた幼なじみ、
静かな屋上に、グラウンドから体育の授業をしている声が届いている。
―――キィ……。
座り込んで空を見上げる私は、音のする方へ顔を向けた。
「おっ、サボりか? 不良少女」
化学の教師がダルそうに私を見下ろし、火のついていないタバコを咥えながら、ニヤリと笑った。
「で? 美人なうえにエロいで有名なお前が、こんなとこでボッチで何してんだ?」
いつどこでそんな話が存在しているのかと呆れながら、私は「特に何も……」と呟いて、また空に視線を戻した。
静かになったのに、やたらと視線を感じてその方向を見る。
タバコに火をつけて煙をくゆらせながら、フェンスに凭れて私を見ている。
年配の教師が多い中、化学の
私は授業以外でほとんど関わる事はしなかったから、こうして一緒の空間にいるのが不思議な感じだった。
「何ですか?」
怪訝に思って、水乃先生を見つめ返す。
「いや、ちゃんと見たの初めてなんだが、マジで美人だな、お前。口元のホクロとか、ガキのくせにエロいよな」
タバコの煙をふかしながら、先生は私から目を離さず真顔でそう言った。
別にやらしい顔をしていたわけでもなく、特に深い意味がない様子で言葉を発したのだろう。
ガキのくせには余計だけれど。
「それはどうも。先生も聞いてたよりは、格好いいですよ」
「ははは、心込もってねぇな」
笑った先生は、まるで子供みたいに無邪気だった。
タバコを消して、近づいてくる先生を何気なく見ていると、私の前で立ち止まる。
「お前暇なら、ちょっと俺の手伝いしねぇ?」
笑顔で言われ、特に断る理由もなかったので、先生について屋上を後にした。
授業中の静かな廊下を通って、鍵の掛かった化学準備室の扉を開く先生の後に続いて、部屋へ足を踏み入れた。
様々な備品が置いてある化学準備室の隣に続いた、別の部屋の扉を開いてそこヘ入ろうとし、入口辺りで足を止める。
「汚い……」
思ったまま言葉が口から発せられ、自然と眉間にシワが寄った。
書類であろう紙の束やら、本の山があちらこちらに散乱し、とにかく様々な物が散らかっていて、机を隠し、ソファーだけがギリギリ顔を出している状態だった。
何をどうしたらこんなにも散らかるのか。
「この酷い有様は一体何なんですか?」
「あ〜、不思議な事に毎回気づいたらこうなってるんだよな」
まるで他人事みたいに言った先生に、ため息が出る。
「適当に座れよ。コーヒー飲めるか?」
先生の質問に肯定の答えを返し、座れる場所があるのかと探すけれど、やっぱりどうも気になってしまう。
「ちょっとだけ、片付けるか……」
手首にはめてあった髪ゴムを使って髪を結い、床に散らばった紙や本を拾って机に移動させて、机も徐々に片していく。
少しして先生が両手にカップを持って戻ってくる。
「おー、何かちょっと片付いてんじゃん。やべぇ、さっきより床が多く見えてる……」
目を輝かせ、感動を露わにした。
たまに見せる顔が、本当に子供みたいで少しおかしい。
クスリと笑い、先生からカップを受け取ってソファーに座る。
「あのさ、たまにこうやって片付けに来てくんね? 俺片付けとか苦手でさ、すぐこんな感じで大惨事になるんだよなぁ……」
苦笑しながら頭を搔く先生に、私は苦笑を返す。
別に毎日でもないし、意外に美味しいコーヒーも飲めるし、何よりたまにはサボり場所にしても目をつぶると言ってくれたので、その条件で了承した。
何より、この時間が少し楽しく感じていたのかもしれない。
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