不埒な関係
柚美。
プロローグ
第1話
高校に入って二年目の秋。
私、
彼の存在も知らなかったし、恋愛にはそこまで興味はなかった私だけど、爽やかで落ち着いたイメージな彼が、照れて真っ赤になりながら、必死に告白する彼が可愛くて、気づいたらOKしていた。
今、隣にはそんな優しくて可愛い彼氏。
屋上で一緒にお昼ご飯を食べる、平和な時間。
そんな二人の時間を裂くように、明彦のスマホが震える。
画面に軽く目を向けて、すぐにポケットへ戻した。
これはよくある事だった。
明彦には女の子の幼なじみがいる。
仲がいいのは付き合う前から知っていたし、紹介もされたからお互いの存在も分かっている。
理解しているつもりだ。だから彼も私に嫌な思いをして欲しくないと、私より彼女を優先する事を極力しないようにしてくれている。
絵に書いたような、どこまでも優しい彼氏。
何故彼は、私を好きになってくれたのだろう。
あんなに可愛い幼なじみがいて、彼女を好きにならなかったんだろうか。
それとも、好きになった事くらいはあったんだろうか。
そんな事を考えていたら、いつの間にか顔が近づいてきていて、私は自然に目を閉じる。
重なる唇。
キスまで優しい。
自分からしたくせに、真っ赤になってはにかむ明彦。
私には勿体無いくらい、いい彼氏だ。
昼休みが終わって、クラスが違う私達は繋いだ手を離して、またねと手を振って彼を見送る。
教室に入る瞬間、目の端に入ってきたのは、慣れた仕草で当たり前のように明彦に擦り寄る、小柄で誰もが守ってあげたくなるような、可愛らしい彼の幼なじみ。
彼には言っていないけれど、彼女は私に見せつけるように、彼にベタベタと絡んで行き、私を横目で見てニヤリと笑う。
彼女は彼を好きなのだろう。それを彼は知らない。
だから彼女からすれば、私は二人だけの世界に割り込んで来て、彼を横取りした邪魔者。
睨まれたり、嫌味を言われたりする事くらいはあったけれど、私は特に何か言うつもりはない。
言ったからといって、彼には彼女を切る事など出来ないのは分かっているから。
彼は優しいから。
優しすぎるくらい、優しい彼が好きだ。
でも、時々、一瞬だけ苛立ちを覚える時もある事は、私だけの秘密だ。
彼の優しさは時に残酷で、私に小さな傷を付けていく。
それに彼は気づかない。
多分これからも、彼が何かに気づく事はないだろう。
放課後、一緒に帰る為に明彦の元に向かう。
開いた教室の扉に近づいた時、丁度彼の姿が現れ、私は声を掛けようと口を開いた。
けれど、隣にいた幼なじみの彼女の姿を目にした瞬間、言葉に詰まった。
「あ、柚菜丁度良かった。ごめん、コイツ体調悪いみたいで……」
彼が言いかけた言葉の代わりに、私が素早く口を開く。
「大丈夫? 私の事は気にしなくていいから、送ってあげて」
「木鷺さん……ごめん……なさいっ……」
か細い声でそう言った彼女と目が合った。
そして、嘘だと分かった。
元々体が弱かったと聞いていたけれど、それすらどこまで本当だったのかすら、正直私には分からない。
勝ち誇ったように笑う彼女は、すぐにその顔を元に戻して、明彦に寄りかかる。
「ごめんな。また、電話する」
心配そうに彼女を介抱する明彦の背中を見送りながら、ため息を吐いた。
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