2クセ:謁見の間
場所は変わり、王城にある謁見の間──。
勇者パーティーである【ゆうしゃのよんじょう】は王からの呼びかけに応えて参上していた。
「──……近ごろ、魔王軍による動きが不穏なものになっておる」
玉座に座っている王が本題に入った。
「えぇ、存じております。あの森に魔狼がいたというのもその1つでしょう」
その声に片膝をついている4人の内、エンメルが答える。
「うむ。本来あの森にはCランクの魔物までしかいないはずなのだがな……」
【ゆうしゃのよんじょう】の4人は、一瞬考えるような仕草で左手を顎に当て、また王に視線を向けた。
エンメルは言う。
「つまり──このままでは国民に不安を与えることになる。なので少し急ぎめで冒険を進めてほしい、と……」
「さすがエンメル、聡明であるな」
ミラーシは言う。
「つまり──国民が何も感じないうちに、うちらがさっさと魔王を倒せばいいってことですね!」
「うむ、さっきエンメルがそう言っておったぞ」
ガードが言う。
「つまり──これまで以上国民を安心させよ、ということだな!」
「…………うむ、そうだな」
シャルドネが言う。
「つまり──これまで以上に国民を癒す必要必要がなくなるようにすればいいのですね」
「……………………であるな」
全員、なろう系主人公であるが故に、無自覚という要素と天然を4人とも兼ね備えている。
だから、こうなる。
「よ、よし。とりあえず4人とも余の考えには賛同してくれたみたいだな。ではよろしく頼むぞ!」
「「「「はっ!」」」」
4人とも王の言葉に頭を垂れて同意の意を示した。
「うむ、では以上である。今日はよく集まってくれたな」
「「「「では、失礼します」」」」
王の言葉に4人は声を揃えてそう言い、ミラーシだけが立ち上がると謁見の間の入り口に向かって歩き出した。
エンメル、ガード、シャルドネの3人は、立ち上がる様子すら見せない。
「む? お主らも帰ってもらって良いぞ?」
「「「はっ!」」」
と、声だけ。3人とも片膝をついたまま。
「え、いやだから、帰っていいって」
「「「承知しております!」」」
と、声だ(ry
「ど、どうしたのだ……?」
「いえ、ただ動けないだけなので!」
「「「「「!?!?!?」」」」」
エンメルがそう答えると、王だけでなく、衛兵も全員驚いたような声を漏らす。
「い、いや動けないってそんなわぬおおおおおおお!!!!」
王が3人のもとに行こうと立ち上がろうとすると、まったく立ち上がれず、情けない声を漏らす。
「あ、王よ! あと20秒ほど待ってくれれば……」
エンメルが王にそう伝えて、約20秒後。
「よし、ミラーシと100m離れたな! じゃ行くぞ」
ようやく動けるようになった3人はそう言って、立ち上がる。
そして、さも「当たり前ですけど?」とでも言いたげな動作で、シャルドネはエンメルとガードの肩に手を回す。
全員元気すぎて、身体がめちゃくちゃ重いのだ。
「それでは王よ! われわれ【ゆうしゃのよんじょう】が、国民を心配させないほどの速さで魔王を倒してみせましょう!!」
と言いながら、3人はめちゃくちゃゆっくりと歩き出し、王城を後にした。
ようやく動けるようになった王は、そんな様子を見て。
(ほんとに大丈夫であろうな……?)
《あとがき》
補足。
ミラーシの『近接鈍化領域』は、ミラーシに敵意のあるものには自動され、それ以外だとミラーシが相手を個人として認識している場合、つまり今回でいう自分のパーティーメンバーと王に対して発動しています。
国民や今回の衛兵は、個人としてではなく『国民』『衛兵』と大まかなくくりで認識しているため、適用外となっています。
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