【完結】パーティー全員クセ強なろう系主人公でも、ちゃんと冒険は成立するのか

もかの

1クセ:魔の森

 勇者。


 それは、数百年に一度生まれる魔王を倒すべく、神々が地上に解き放つ並外れた力を持った存在である。

 その力があって初めて人類は魔王に対抗できる。


 ただし、世界の均衡を守るべく、魔王1人につき勇者1人という原則が取られている。

 規格外の力を持った魔王と、並外れた力を持った勇者。それぞれが1人ずついることで世界の均衡・秩序が保たれている。



 ──ではもし、その均衡が崩れたら?



 魔王の数が増えたら、それこそもう人類は太刀打ちできないだろう。魔族というのは、本能的に人間を殺そうとしてくるのだから。


 では、勇者の数が増えたら?


 人間は本能に抗うという能がある。人間にはさほど、争う理由がないのだ。


 まぁこんな堅苦しいことはどうでもよくて、結局何が言いたいのかというと──。






 勇者が、4人、現れたのだ。




     ☆




 王国の近くに位置する、通称魔の森。


 ここに、パーティー【ゆうしゃのよんじょう】の面々が訪れていた。



 黒髪をただ下ろしただけだというのに、無駄に顔が整っている、よくあるなろう系主人公の風貌をした、エンメル。


 世界最強の片手剣使いである。また、相手に魔法での勝負に持ち込ませないために、彼の一定範囲以内では自動で『魔法禁止領域』が展開されている。



 ショートでゴスロリ衣装に身を包んだ、無駄に顔が整っている、よくあるなろう系主人公の風貌をした、ミラーシ。


 世界最強の魔法使いである。また、相手に近距離での勝負に持ち込ませないために、彼女に向かってくるものがいた場合、一定範囲以内では自動で『接近鈍化領域』が展開されている。


 その効果は、対象者が強ければ強いほど高まる。



 ……もうすでにツッコみたい気持ちは分かるが、あと2人だけ紹介させてもらおう。



 スキンヘッドに美しい茶色に焼けた肌、無駄に顔が整っている、よくあるなろう系主人公の風貌をした、ガード。


 世界最強のタンクである。また、相手に理不尽な耐久を押し付けるために、仲間が弱ければ弱いほど耐久力が増す『逆境耐久領域』が自動で展開されている。



 美しい黒髪が風に靡き、修道服を着た、無駄に顔が整っている、よくあるなろう系主人公の風貌をした、シャルドネ。


 世界最強のヒーラーである。仲間が弱れば弱るほど自動で体力を回復することができるが仲間が元気であればあるほど自身の身体が重くなる『不死身領域』が自動で展開されている。



 いい面だけを取れば、


『世界最強の剣士』

『世界最強の魔法使い』

『世界最強のタンク』

『世界最強のヒーラー』


 という、最強にもほどがあるパーティーである。


 しかし、なんということであろう──いや、もう想像ができていると思うので、然程驚かないだろうが。

 この4人、世界最強の反面、世界最恐レベルの相性の悪さなのである。



 エンメルがいる限り、『魔法禁止領域』のせいでミラーシは数百メートル離れた場所から攻撃しないといけない。


 ミラーシがいる限り、『接近鈍化領域』のせいでエンメルは彼女の方向に逃げることができない。


 全員がなにかしら怪我をしていないと、ガードはめちゃくちゃ弱い。


 仲間が元気であるほど、シャルドネの移動速度はかめよりも遅くなる。



 その結果出来上がった、このパーティーの最善陣形はこうだ。



 先頭にエンメル。その100m後ろにガードとシャルドネ。その100m後ろにミラーシ。



 全長200mを超える、頭のおかしい陣形であった。ヘビかよ、というツッコミすら短く感じる。



 その時、数十匹の魔狼がエンメルを急襲した。


 魔狼。Aランクを超えるかなり危険度の高い魔物だ。

 魔力により超強化された素早さで動き回り、冒険者を翻弄する。


 だが、そんな魔狼も無闇には攻めてこない。それもそのはず、そこにいるのはSSSランクの勇者なのだから。


「俺を襲ってきたのが運の尽きだ! 行くぜッ!」


 エンメルがそう言うと、魔狼はすぐに戦闘態勢を取ろうとする──が、最高速度に乗る前にその大半を切り裂いた。


 これこそ片手剣最強の一撃。近距離において彼に太刀打ちできるのは、それこそ魔王だけだろう。


 しかし、そのことに唯一気づいた魔狼が、エンメルの横を通って抜けていってしまった。パーティーで挑んでくることくらい知ってるので、後衛を襲おうと考えたのだろう。


 エンメルが追おうとするも、残りの魔狼や新たに現れた魔狼が邪魔をしてくる。


 エンメルはその一匹は他の仲間に任せることにした。



 エンメルの猛攻から逃れることができた魔狼は、辺りを探索するようにエンメルと距離を置く。


 ──そして、探すこと約5分。


 やっとのことで、100m離れたところにいた2人を見つけた。


 魔狼は襲いやすそうな方を見定める。


 ──かたや、見るからに「対魔族用です」と言わんばかりの純白の大盾を持った大男。


 ──かたや、神々しい杖は持っているものの、襲われるのが怖いのか、小刻みに震えている小柄な女性。


 ……仲間全員が元気すぎて、重くなりすぎた結果、なかなか動けずに震えているだであるが。


 そんなことは知らない魔狼は、シャルドネに襲いかかる。だが、ガードがその攻撃に割って入るように盾を構える。


 超高速の攻撃にも、大盾を持っているとは思えないほどの速度で対応してくる。これこそが世界最強のタンクである。


 魔狼は超高速の勢いを活かした引っ掻きのような攻撃を、その大盾にかます。



「ヴァルゴハァッ!!」



 仲間が最強しかいないため、耐久力など0に等しいガードは、見た目に反して数メートル吹き飛ばされた。


 ガルムは瀕死のダメージを負った。ということは、シャルドネの能力によりとてつもない速さで再生するということであり。



「ヴァルゴハァッ!!」



 再度シャルドネを襲おうとした魔狼の攻撃を、完全回復したガードが受けた。そして、また飛ばされた。


 ガードが死ぬことは絶対にないが、耐久力0でAランクの攻撃を受け続けること少々。魔狼の後ろからエンメルが走ってきた。


「よく耐えた! さすがは世界最強だ! あとは俺に任せろ!」


 まったく耐えれていないような気もするが、ガードは地面に倒れながらサムズアップする。


「うおおおおおおおお!! おおお……お……」


 だが魔狼に近づこうとすればするほど、エンメルは動けなくなる。


 もちろん、魔狼による妨害魔法などではなく、ミラーシが常時展開している領域によるものだった。


 強ければ強いほど動けなくなる領域。勇者には効果抜群だった。


 瀕死とタンクを行き来しているガードと、ガードを治癒するだけの岩のように身体が重いシャルドネ。


 その2人と、1分に数センチしか進めなくなっているエンメル。


 それに挟まれる魔狼のなんと可哀想なことか。




 ちなみにこの戦闘は、ミラーシによる遠距離からの魔法で終わったらしい。

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