第44話
美亜さんと別れ、私達は手を繋いで歩く。
「何か、騒いだ割にあっさりだったな……」
「うん。でも、美亜さんにも何か思うところがあったのかもしれないね」
美亜さんの気持ちは彼女にしか分からないし、彼女だけのものだ。
「でも、どうしてここが分かったの?」
「冴香は嘘が下手だから、帰りに様子がおかしかったし、頼とか他の生徒とか捕まえて、色々聞き回った。それと、勘かな。あー、後……」
蓮君の行動力と、謎に鋭い勘に圧倒されていると、蓮君が立ち止まり、壁へと追いやられる。
「冴香の"匂い゛かな」
「蓮くっ……」
首筋に顔を埋めて、匂いを嗅ぐ蓮君の体を押すけど、ビクともしない。
元々人気が少ない道が、日も暮れ始めていて余計に人がいない道だけど、何時何処で誰が来るかも分からない緊張が、私の体を強ばらせた。
「そんなに緊張しなくても、ここで何かするわけじゃないから安心して」
「んっ……」
至近距離で笑顔を浮かべた蓮君の顔が、一瞬だけ間近にまで近づいた。
「なっ、なっ……」
「キスは別」
「れ、蓮君っ!」
「怒った顔も可愛いよ」
言って、蓮君はまた触れるだけのキスをする。
「んっ、ふぁ……ぅ、ンっ……蓮、くっ、これ以上はっ……」
「はぁ……確かに……これ以上したら、キスだけじゃ足りなくなるな……帰ろっか」
私が言った意味と、蓮君の言った意味は違うけど、でも蓮君が止まってくれた事に少し安堵してたり。
深くなるキスを何とか止めて、蓮君と改めて手を繋いだ。
「でも、冴香もわざわざ彼氏の元カノの相手するなんて、お人好しだよねまったく」
「そ、そうかな? わ、私も……話し、したかったから……」
不思議そうに蓮君がこちらを見る。
そして、柔らかい笑みを浮かべた。
「冴香のそういうとこ、好き」
「っ……え、ど、どういうとこ?」
「どんな人も平等に受け入れて、まっすぐ立ち向かうとこ」
平等とか、受け入れるとか、ましてや立ち向かっているつもりなんてなくて。
ただ、蓮君をもっと知りたくて、蓮君ともっと深く関わりたいって思う、ただの欲でしかない。
「私そんなに大人でも、綺麗な考え持ってる人間でもないよ……」
「へぇー」
「れ、蓮君……」
繋ぐ手を引かれ、また蓮君と体が密着する。
「欲まみれで汚い感情持った、悪い冴香にもすっげぇ興味あるな……」
「ぁ……蓮くっ……」
普段の、何処かぼーっとしてて、柔らかい雰囲気の蓮君が、たまに男の人の顔をするのが、いまだに慣れなくてドギマギしてしまう。
お尻が蓮君の大きな手で揉まれ、お腹の奥が疼いた。
「今すぐ押し倒して、冴香の肌に俺を刻みたいのに、何で外なんだろうね……」
抱き寄せられながら、首筋に蓮君の甘い息がかかるだけで、体が期待に震える。
体を重ねてから、私は変になってしまった。
いつだって、彼に触れられて、求められる事が嬉しくて、心待ちにしてしまっているようで。
はしたない自分が、恥ずかしい。
「っ……冴香……そんな欲しそうな顔、しちゃ駄目だよ……エロ過ぎ……」
「し、してなっ……ぃ……」
蓮君から顔を逸らすけど、目が合った時の蓮君の興奮したような、高揚した表情に、つられるみたいに体が更に熱くなる。
「ねぇ、冴香……俺と一緒に、悪い子になって?」
「へ?」
触れるだけのキスに、頭が痺れて何も考えられずに、私は意味も分からず頷いていた。
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