第42話
窓際に追い詰められるみたいに座る私を、逃がさないとでも言うように蓮君が隣に座る。
蓮君の前には美亜さんがいた。
「前にも言ったけど、俺これからもずっと彼女の事しか興味ないし、美亜に振り向く事は絶対ないから、悪いけど諦めて」
「そ、そんな先の事なんて分からないじゃんっ!」
「分かるよ。彼女以上に俺の気持ちが動いた人は、今までもこれからも存在しない」
はっきり言葉をぶつける蓮君に、美亜さんは「でも」と食い下がる。
私は何も出来ず、ただ二人の話を聞いていた。
「蓮の気持ちは分かったけど、私だってそんな簡単に諦めらんない。蓮は私にとって、誰にも代わりのいない人だから」
「俺が無理って言ってんだから、美亜がどう思ってても、その気持ちが通じ合うなんて、絶対ないよ」
蓮君が言って、カバンを手にして私の手を握る。
「何を言われても、俺の気持ちは変わらないし、美亜では変えらんないから」
泣くのを耐えるような顔をした美亜さんが、下を向く。
蓮君はそのまま私の手を引いて店を出た。
「れ、蓮君……あの……」
「いいんだよ。はっきり言わないと、変に優しい事言って、期待させる方が可哀想だろ」
こちらを見る事もなく、蓮君は言った。
その日以来、美亜さんは現れなくなったらしく、最後にファミレスで見た姿が思い出された。
「冴香ちゃん」
「桂川君、どうしたの?」
珍しく一人で現れた桂川君が、慎重に周りをキョロキョロと気にしながら、私を階段下の物陰へと誘導する。
「あのさ、蓮に言うのは避けたんだけど……美亜さん、覚えてる?」
「あ、うん」
言いづらそうに桂川君が口を開く。
「その、冴香ちゃんの連絡先聞きたいらしくてさ。俺蓮と付き合ってた頃のあの人を少しだけしか知らないんだけど、たまに度が過ぎる行動する時があってあんまり気は乗らないんだけど、どうしても蓮抜きで話したいってお願いされて……」
困ったように頭を掻く桂川君を見上げ、私も考える。
私に話とはなんだろう。
私に何か出来る事があるようには思えないけど、ただ、気にならないわけじゃなかった。
「私は、別に構わないけど……でも、蓮君がいないのに……勝手に、いいのかな……」
「何かあったら、俺何時でも連絡取れるようにしとくから、連絡して」
力強く言われ、私は桂川君に美亜さんとコンタクトを取って貰う。
蓮君に隠し事をするのは気が引けたけど、蓮君には知られたくないようだったから、黙っている事にした。
「蓮を私に返して欲しいの」
会って第一声がこれだった。
私は絶句してしまった。
「あ、あの……私に蓮君の気持ちをどうこうする力は……」
「ないって? 蓮が私の気持ちに応えないのは、貴女がいるからでしょ? 貴女がいなくなってくれたら、蓮は私の所に帰ってくるはずだから。貴方から身を引いてくれない?」
美亜さんの言いたい事は分かる。
でも、私にだって思う事はあるから。
「貴女だって分かるでしょ? 蓮には貴方みたいな地味な子より、私みたいな女の方が似合うって。私は貴女より蓮をよく知ってるし、分かってあげられるの。だから、蓮を返して」
確かに、蓮君の初めてのヒトで、私より前から蓮君を知っていて、隣にいて釣り合うのは私より美亜さんだろう。
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