第八章

第35話

ふわりとソープの香りが鼻をくすぐった。



「見つけた。どっか行っちゃったのかと思った」



後ろから抱きしめられ、心臓が激しく波打つ。



「い、行かないよ……」



「よかった。何してたの?」



「へ、部屋、見てたの」



「探検? 広いもんね、部屋」



言いながらも、蓮君は私の耳裏、首筋にキスを落とす。



くすぐったいような、不思議な感覚に甘い痺れを覚えて、鳥肌が立つ。



「んっ……ぁ……」



「冴香、可愛い声……もっといっぱい聞きたい。ベッド、連れてってい?」



私は聞かれてゆっくり頷いた。



横抱き、俗に言うお姫様抱っこをされながら、ベッドへ移動する。



先程より更に心臓が激しく動いていて、どうしたらいいか分からず、とりあえず蓮君にしがみつく。



優しくベッドに降ろされ、覆い被さる蓮君が柔らかい笑みで見つめ、私の髪を撫でた。



「怖くない?」



「だ、大丈夫……だけど……き、緊張で、心臓が出そうです……」



「はははっ、俺も」



「え……嘘だ……蓮君、余裕って顔してるよ?」



「まさか。ほら、心臓がさっきからすっごい暴れっぱなし。だって、ずっと欲しかった子が俺を好きになってくれて、しかも触れる距離にいて、大切なモノくれるって状況は、奇跡みたいなもんだし、最高な事でしょ」



手を取られ、蓮君の胸に当てられると、確かにそこは物凄く早いリズムを刻んでいて。



蓮君がそんな事を考えているなんて、思ってもみなかった。



何より、蓮君でも緊張したりするんだと、驚きでいっぱいだ。



「止まる自信は正直ないけど、もし怖かったり、無理だってなったら言って。殴ってでも止めていいから。俺、冴香を傷つけてまでするつもりないし、大切にしたいから」



そんな事出来るわけないけど、蓮君なりに私の事を考えてくれているのが、物凄く嬉しい。



私は蓮君の首に腕を回した。



「ありがとう……初めてだから、その……色々迷惑かけますが、よろしく、お願いします……」



「ふふ、こちらこそ、よろしくお願いします」



笑いながら、ゆっくり唇が触れる。



ソフトに始まった口づけが、段々深くなっていく。



蓮君の熱い舌が口内で暴れ回る。それに応えるのに必死で、自然と手に力が入る。



蓮君を抱きしめながらキスに応える中、視線が交わってゾクリとする。



熱く刺さる視線に、頭の芯から痺れるみたいで。



「キスだけでも、凄いえっちな顔してる……」



「ゃ……んっ……」



恥ずかしくて、でもそれも彼のくれる大切な感情で。



用意されて着ていたバスローブの紐が解かれ、肌が晒されて購入したばかりの真新しい下着が見える。



「これ、新品?」



「う、うん……莉央奈と唯に、一緒に選んでもらって、最近買いました……」



「俺の為?」



驚いたみたいな顔で聞く蓮君に、私は頷いて見せると、蓮君が口元を押さえる。



「ヤバ……嬉しすぎる……」



「それは、よかったです……」



「脱がせるの勿体ないくらい、似合ってる。すっげぇ可愛い」



無邪気に笑う蓮君にお礼を言った私に、触れるだけのキスをする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る