第34話

いいよと言ったものの、何をどうすればいいのか。



私は何か準備したりするものがあったりするのだろうか。



ここ数日そんな事ばかり考えてしまい、私はさぞかし挙動不審だっただろう。



「別に、レンレンに任せてればいいんじゃん?」



「そうだね。彼、経験者だし」



明らかに私より物知りであろう、唯と莉央奈に相談する事にした私は、ただ今ショッピングモールにいた。



「こんなんいいんじゃない?」



「普通に使うならいいけど、ちょっと冴香には派手じゃない?」



「えー、でもこのくらい大胆な方が」



私は、下着を選ぶ二人の人形と化していた。



初体験の時に着ける下着の、だ。



「で、でも、私にこんな大人っぽい下着は……」



「「じゃ、これだね」」



二人が同時に差し出した下着は、子供っぽい私でも何とか着けられそうな物だった。



購入した下着の入った袋を見ていると、段々緊張が膨れ上がって来る。



「今からそんな緊張してどうすんのさー」



「まぁ、好きな人との初めてって、そんなもんなんじゃない?」



二人が励ますように肩をポンポンと叩く。



こんなので、蓮君を前にした時、私は耐えられるのだろうか。



そんなある日。



「冴香は、突然外泊とか出来る?」



「ふぇっ!?」



放課後、二人で歩く帰り道。蓮君が突然そんな事を聞いてきたので、変な声が出てしまった。



「動揺し過ぎでしょ」



蓮君に笑われてしまった。



聞けば、蒼さんの友人にホテル経営者の息子さんがいるらしく、本当は蒼さんが泊まるはずだった部屋が、蒼さんの事情で宿泊出来なくなったらしい。



キャンセルするのももったいないという事で、蓮君が宿泊する権利を譲ってもらったという。



「俺と一緒に、どうですか?」



確信犯なのか天然なのか、私の顔を覗き込むように首を傾げるような姿勢で見つめる蓮君に、どう答えるか迷ってしまう。



とりあえず、両親に聞いてみてからと言ったら納得してくれたようだ。



早速、私は両親が珍しく早く帰った日に、話してみる事にした。



陸は寝てしまい、リビングに両親と私の三人がソファーに座って向き合う。



「いいんじゃない? 滅多にないわけだし、せっかくのご好意なんだから、行って来たら?」



「ええっ!? だ、大丈夫かな? 彼氏と一緒とはいえ、高校生だけでなんて……心配だなぁ……」



「パパの気持ちも分かるけど、この子達もやっていい事と悪い事の区別がつかない程、そこまで子供でもないわよ。それに、自分の娘と、娘が選んだ彼を、私達が信じてあげなきゃ、誰が信じてあげるの?」



いつものように説得する母の言葉に、まだ少し心配そうな父がしばらく考えて「そうだね。分かった、行っておいで」と言ってくれた。



二人が信用してくれる分、私も二人にあまり迷惑にならないように行動しないとと思いながら、改めて二人にお礼を言った。



そして、その日はすぐにやってきた。



「す、凄い……」



想像していたものより、豪華なホテルに驚いた後、部屋に入って更に驚く私をよそに、蓮君はいつも通りだ。



「そんな入口で立ってないで、こっちおいで」



言われ、私は広くて豪華な部屋を、キョロキョロしながら進んだ。



蓮君と二人になった広い部屋は、静か過ぎるくらい静かで。



自分の心臓の音が、妙に大きく聞こえる。



「先、風呂入って来る?」



「へっ!?」



「ぷっ、緊張し過ぎ。ほんと可愛いな、冴香は」



笑う蓮君を気にしないようにして、私はお言葉に甘えて、お風呂に入る事にした。



ただ、こういう時は何処まで洗うべきなのか。



どれだけ考えても分からないし、蓮君に聞く訳にもいかず、私はいつも通りにする。



蓮君を待たせないように素早く入り、髪を丁寧に梳かす。



その間も、私の心臓はうるさいくらい鳴り響く。



私と入れ違いに蓮君がお風呂へ。



緊張でソワソワして落ち着かない。



気を紛らわすように、先程はちゃんと見れなかった部屋を隅々まで探検する。



蒼さんの友人のご好意とはいえ、普通に宿泊したらいくらになるんだろうと考えて、怖過ぎて考えるのをやめた。

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