第29話
他のチームも次々と紙を手に探し回り、意外な盛り上がりを見せる中、蓮君の番が来た。
紙を見た蓮君は、迷いなくこちらを見る。
まっすぐな視線に囚われる。
蓮君は、一体何をしようというのだろう。
「冴香、一緒に来て」
言われ、私はクラスメイトの間をぬって、グラウンドに出る。
その瞬間、体が宙に浮いた。
「っ!? れ、れれ、蓮君っ!?」
「この方が早い」
確かに。悔しいけど、足の遅い私の手を引いて走るより、蓮君が抱えた方が早い。蓮君の選択は正しい。
けど、全校生徒の見ている中、抱えられるのは、非常に恥ずかし過ぎる。
ゴールで降ろされ、蓮君が紙を審判の先生に渡す間、私は暑い顔を冷ますのに必死だった。
紙と私を見比べ、先生は笑って「青春じゃねぇか、コノヤロー」と言って合格の札を上げた。
紙を見ていない私は意味が分からず、蓮君を見る。
「何て書いてあったの?」
「可愛いモノ(人でも可)」
真顔で答える蓮君に、私の顔はまた暑くなる。
「レンレンらしいねー。てか、レンレンなら何書いてても、大体の答えに冴香連れて行くんじゃない?」
「うん」
いつの間にか横にいた莉央奈が言うと、蓮君が即答する。
「えっ、いやいや、そんなにたくさんの選択肢に私当てはまらないと思うけど……」
「当てハマるハマらないの問題じゃなくて、当てハメるんだよ。そういう男だよ、レンレンは。見なよ、この何処までも澄んだ瞳を」
悟ったみたいな顔で私の肩をポンと叩く莉央奈と、納得したように頷く蓮君に、苦笑を返すしかない。
その後は、特に何事もなく平和に競技は進み、リレーの選手を呼ぶアナウンスが聞こえる。
私は唯を見送り、私のクラスにまで来ていた蓮君に手招きされ、そちらへ向かう。
クラスから少し離れた場所にある木陰まで手を引かれ、手はそのままに蓮君の前に立つ。
「どうしたの? 集まらないとでしょ?」
「うん。ちょっとだけ」
いつも通り、私をまっすぐ見つめる蓮君を見上げる。
「クラス違うけど、応援しててくれる?」
「うん、もちろん。大声で応援はさすがに無理だけどね」
笑う私の手を蓮君が少し引いて、更に近づく。
「一位獲ったら、ご褒美欲しい」
「ご褒美? いいけど、私に出来る事あるかな……」
自分に何が出来るか考えている私の体が、蓮君の大きな体に包まれる。
すぐに体は離されたけど、代わりに蓮君の指が私の唇をなぞる。
「冴香の可愛いココ、俺に下さい」
意味が理解出来ず、私は絶句していたけど、理解した瞬間、顔から火が出るかと思った。
彼は、私にご褒美のキスを求めているのだ。
「ダメ?」
蓮君はズルい。困ったみたいな、ねだるみたいな顔をしたら、私が断れないのを知っているから。
「……か、考えて……おきます……」
「うん。いっぱいいっぱいずーっと俺の事、考えてて」
耳元で囁くみたいにして言葉を残し、蓮君は私の額にキスを落として去って行く。
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