第28話

放課後、帰る支度をして莉央奈と唯に続いて教室を出る。



「お疲れ。みんな出る種目決まった?」



廊下には、桂川君と蓮君の姿があった。



相変わらず、二人並ぶと迫力というか、華がある。



「俺は個人で徒競走、団体でリレーだから、唯ちゃんと一緒じゃん。負けないよー?」



「望むところだね」



「蓮君は、何にしたの?」



「個人は借り物で、団体はリレーにした。走るの嫌いじゃないし、何より一番リレーが気を使わない」



「気を使わない、か……すごいなぁ、蓮君は」



「冴香は、走るの嫌い?」



「苦手、だね……」



少し距離を縮めてくる蓮君を、更に見上げる。



「俺が抱っこして走る?」



「蓮……何でそんな発想になるんだよ」



「レンレンの不思議ちゃん炸裂ー」



「それこそ先生に怒られる案件だね」



蓮君からは冗談の気配がしなかったので、とりあえずは苦笑して、気持ちだけもらっておく事にした。



そして、あっという間に体育祭当日。



緊張もそこそこに、個人種目を何とか終える。



「冴香、お疲れ」



「あ、蓮君」



蓮君に歩み寄ると、優しく微笑む蓮君の手が私の頭に置かれた。



「見られてたと思うと、何か、恥ずかしいな……」



「そう? 俺は楽しかったけど。それに、何かパンを一生懸命咥えようとしてる姿が、何かエロかった」



「エロ……れ、蓮君っ!」



抗議する私をよそに、袋に入ったパンへ蓮君の視線が注がれているのに気づく。



「パン、欲しいの?」



「冴香がいらないなら、欲しい」



私が蓮君にパンを差し出すと、蓮君は「ありがとう」と笑った。



それから体育祭は順調に進み、蓮君と莉央奈の出場する、借り物(人含む)競走が始まった。



莉央奈のお題は『ムキムキの男性』だ。



莉央奈は一目散に、生徒指導の先生の元へ走り出し、先生の背中に飛び乗った。



背中におぶさった莉央奈を、先生は落とさないようにしながら走っていた。



さすが体育を受け持っているだけの事はある。軽々と莉央奈を背負って走る先生に、生徒から歓声が湧き上がった。

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