第六章
第26話
お昼休み。
いつものメンバーで、ポカポカ陽気の屋上で食後にまったりしていた。
「はぁ……幸せ過ぎて溶けてなくなってしまうかもしれない……」
いつもの調子で、私が答える前に私の膝に頭を置いて寝転び、目を閉じながら蓮君が呟く。
「リア充め……」
恨めしそうに桂川君が、蓮君を睨め付ける。
「頼も彼女作ればー? あんたなら選り取りみどりでしょー?」
「いやいや、それがそうはいかないのだよ」
「まぁ、確かに。不誠実な奴には同じような奴しか寄って来ないって言うもんね」
サラっと唯が口を挟む。それに莉央奈がまた煽るように桂川君を笑う。
「類友ってやつじゃん、頼だっさぁー」
「まぁ、莉央奈ちゃんたら、酷いっ!」
「でも、桂川君モテるのに、彼女作らないの?」
私の質問に、桂川君が少し考えるみたいに上を向く。
「そうだなぁ……唯ちゃんみたいに大人なクールビューティーで、莉央奈ちゃんみたいに自分の意見がはっきり主張出来て、冴香ちゃんみたいに優しくて思いやりのある子に出会えてないから、かな?」
イタズラっぽく「可愛い子がいくら周りにいたって、駄目って事だね」と、白い歯を見せて笑う。
モテる人には、モテる人なりの悩みがあるんだなと思って、蓮君を見る。
閉じた瞼で、長いまつ毛が揺れている。
「まぁ、蓮にはそんな悩みなんて、無縁だろうから、余計腹立つな」
「うわぁー、男の僻みとか最悪ー」
「莉央奈ちゃんて、俺の事嫌いなの?」
泣く演技をしながら、桂川君が莉央奈に縋る。それを華麗にスルーして、莉央奈が立ち上がる。
「別に。そもそも嫌いなら一緒にいないし、でも女にだらしないとこは嫌い、キモい」
「同じく」
唯と莉央奈の意見が一致した瞬間、チャイムが流れた。
午後の授業は、ポカポカ陽気と満腹感のせいで襲いかかる眠気と、国語の先生の男性特有の低く柔らかい声が、子守唄となって私達生徒を苦しめる。
「莉央奈ほとんど目が開いてないね」
小さな唯の声が耳に届き、頬杖を付きながら眠さからか、今にも体が机に引っ付いてしまいそうな莉央奈に苦笑する。
ポケットに入っていたスマホが震えるのを感じ、誰からかだけを確認すると、蓮君からだった。
一度見てしまったら、気になりだして、いけないと思いつつも、確認する。
【眠い、暇( ³ω³ ) 冴香は今何の授業?】
【国語だよ( ⸝⸝•ᴗ•⸝⸝ ) 蓮君は、やり取りしてて平気なの?】
【俺は今自習だから平気。邪魔しちゃったなら、ごめん( ´◔‸◔`)】
【少しなら大丈夫だよ。いいね、自習(˶◜ᵕ◝˶)】
蓮君の使う顔文字に、先生に見つからないようにこっそり笑う。
【授業中の冴香も可愛いんだろーな。眺められないのが悔しい(⧿︹⧿lll)ムムッ 同じクラスの奴が恨めしい(●`з´●) オコデス!】
たまに蓮君は、くすぐったくて、こちらが恥ずかしくなるような言葉を平気で言ってくる。
好いてくれるのはありがたいし、素直に嬉しいけれど、たまにどうしていいか分からなくなる。
モテる人は流したりするのも上手いのだろうけど、私はこんなに誰からからアプローチを受けた事も、告白すらされた事もないから、戸惑ってしまう。
「嬉しそうな顔したり、困ったり大変ね」
唯の声に、考えが顔に出ていたのだと苦笑する。
スマホをしまって、授業に集中する。
先程までの眠気はもうなくなっていた。
授業終了のチャイムと共に、もう完全に机と一体化していた莉央奈が、跳ねるように体を起こす。
「ふあぁー……やっと終わったー……山ちゃんイケボ過ぎだろ……そりゃ、寝るわ……」
莉央奈が伸びをしながら呟いた。
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