第25話

短いけど、蓮君らしいおやすみのメッセージとスタンプ。



つい頬が緩んでしまう。



「幸せそうな顔しちゃってー。よっぽど彼が好きなのねー」



母に言われ、私は自分の顔が赤くなるのを感じていた。



「二人に会って、挨拶も出来てよかったって」



大好きな両親に頭を下げていた、普段のぼんやりした蓮君とは違う、凛々しい姿を思い出した私の胸が熱くなる。



「機会があれば、私達がいる時に家に連れてらっしゃい。もっと彼と話してみたいわ」



「パパも、話してやらない事もないけどね」



「パパ大人なのに拗ねてるー」



楽しそうにキャッキャと笑う陸の頬に、自らの頬を擦り付ける父。



母は呆れながらも、何処か楽しそうだ。



両親の仕事も終わり、四人で食事を済ませ帰宅する。



父と陸はお風呂へ行き、私はソファーに座って一息吐いた時だった。



隣に座った母が、唐突な質問をぶつける。



「で? 彼とはどこまでいったの? もうキスくらいはした?」



「なっ!?」



自分の子供に何て質問をするんだ。



私は俯いて首を横に振る。



「あら、清い交際なのねー。我が娘ながら、奥手過ぎるというか、慎重というか」



「そ、そういうのは、い、急いでするものじゃないでしょっ……」



恥ずかしくて、顔から火が出そうだ。



私だって、興味がないわけじゃないけど、やっぱり未知の世界だから、少し怖いし、恥ずかしい。



「まぁ確かにそうね。ま、自然にそうなる時が来るわよ。あ、でもちゃんと避妊はするのよ?」



「ひにっ……おお、お、お母さんっ!!」



「はいはい、すみませんでしたー」



反省なんて微塵もしていない母をよそに、私は顔の熱を逃がす事に必死だった。



いつか私も、蓮君とそういう事になるのだろうか。



今の私には、全く想像がつかなくて。



もしかして、私の年代はみんなこういう事を、もうとっくに済ませているんだろうか。



唯や莉央奈とは、そんな話をする事もなかったから、気になり始めると、そんな事ばかりが頭を支配する。



「お、お母さんは、その……えっと……」



「ん? 初体験? 私は中学二年の時よ。好きだった先輩と」



「えっ!? ち、ちゅう、が、くせぃ?」



「これでも、私の時代を考えたら遅い方よ? 友達は小学校六年生だったし。あ、ちなみにファーストキスは幼稚園」



全く意味が分からない。



私より年下の、小さい子が、もうそんな世界に足を踏み入れていた事に衝撃が。



固まる私の頭に手を軽くポンと乗せた母が、優しく笑う。



「人それぞれよ。早いからいいとか、遅いから駄目とかじゃないしね」



私は母を見て頷くと「いつでも相談してね」と、私と恋バナ出来るのが嬉しいと母は喜んでいた。



翌日、私は学校で衝撃を受ける。



トイレでポーチからリップを取り出そうとした時、見慣れない物が目について、手に取る。



「冴香、どした? えっ!? あんたそれゴムじゃん。何でそんなん持ってんのっ!?」



「莉央奈、私等だけだからって声デカい。でも、冴香でも、そんなの持ってるんだね」



手にした物が何なのかは、正直一瞬分からなかった。



ゆっくり顔に熱が集まる。



取り出した状態で固まる私から、莉央奈がそれを奪う。



「何か書いてるー。なになにぃー? 娘を大切にしないと、ころ……あー……あのパワフルお母さんらしいわー」



「物騒なメッセージだけど、母の愛は伝わるわ」



笑う唯と莉央奈からそれを返してもらい、ポーチに素早く戻す。



二人には言わなかったけれど、それはその一つだけではなく、数個入っていた。



何故こんなに入れたのかは分からないけど、昔から母には驚かされる事ばかりで、今更な気もするけど、ある意味母らしい行動だと苦笑する。

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