第24話

流れる景色を眺めていると、あっという間に着いた。



シートベルトに手を掛けた瞬間、陸が明るく声を上げた。



「ママだっ!」



窓から外を見ると、キョロキョロとしている母の姿があった。



白の清潔そうなパンツスーツに身を包んでいるけど、顔は仕事モードから母親モードになっている。



急いで車から降りた陸が、一目散に母の元へ駆け寄る。



自分を呼ぶ陸に気づき、母はスーツが汚れる事すら気にする様子もなく跪いた。



陸を抱き上げた母が、車を降りた私達を視界に入れた。



「初めまして、冴香ちゃんと仲良くして頂いてます、那茅場蓮の母の優里です」



各々自己紹介をしている中、私の手が何かに包まれる。



見ると、蓮君が私の手を握っていた。



私の手を引いて、母の前に一歩踏み出した。



「初めまして、那茅場蓮です。冴香さんとお付き合いさせて頂いてます」



母が目を丸くした。



それもそうだろう。私は今までずっと男の子に縁がなく、好きな男の子すら出来た事もない。



そんな私が彼氏を連れて来た事に、驚きを隠せずにいるようだ。



陸を抱いたまま、母が蓮君に向き合う。



「冴香には、今までたくさん苦労を掛けて来たから、その分たくさん幸せになって欲しいの。だから、冴香を大切にさえしてくれれば、私からは何も言う事はないわ。冴香をよろしくお願いします」



母の手が私の頭を撫でた。



いつもの柔らかい笑顔と、優しい手に涙が出そうになる。



「あっ! パパーっ!」



子供みたいに手を大きく振って走り寄ってくる父。



平均より少し高い母より、頭一つ分くらい小柄な父は、背が高い蓮君一家を見上げながら、いつもの人の良い笑顔でふにゃりと笑った。



またも先程と同じように自己紹介が始まる。



ただ、母とは違い、父は蓮君の言葉に「おつき、あい?」と言って固まってしまった。



私は苦笑するしかなく、母はため息を吐いた。



父はなかなかの過保護で、蓮君のお父さんと同じく心配性なのだ。



固まっていた父が、突然私を見る。



その目は何故か潤んでいた。



「冴香ちゃん……お嫁に行っちゃうの?」



今にも泣きそうな顔で言われ、戸惑う私をよそに、母が慣れたように父を宥める。



「子供はいつか巣立つもんなんだから、大の男がメソメソしない。パパには私がいるでしょ」



「ま、ママぁー……」



いつものように平和な我が家だとまた苦笑する。



蓮君達と別れ、見慣れた両親の会社に足を踏み入れた。



「ごめんな、まだ少しだけ仕事が残っているんだ。いい子で待っていてくれるかい?」



陸に優しく話しかける父に、陸はいつもの笑顔を向けて頷いた。



頭を撫で、父と母は机に向い、書類を捲り始める。



母の膝に座り、陸はお絵描きをしている。



私はソファーに腰掛け、震えたスマホの画面に目を向けた。

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