第23話

私の聞き間違いでなければ、目の前に立つモデルのようにスタイル抜群のこの女性は、蓮君のお母さんという事になる。



自然と体が緊張で強ばり、素早く立ち上がる。



「あ、あの、お邪魔してますっ! 初めまして、私蓮君と同じ学校でっ……」



「蓮の彼女の冴香ちゃんよね。話は蓮からしつこいくらい聞いてるよー。初めまして、蓮の母の優里ゆうりです。蒼や莉音からも色々聞いてて、ずっと会いたかったのよ」



一体何と聞いていたんだろう。予想するのが怖すぎる。



「蓮が女の子の話をするのも連れて来るのも初めてだから、もー興味津々で。会えて嬉しいわー」



眩しいくらい綺麗な笑顔でニコニコしながら言われ、少し照れてしまう。



「ん? 君は確か陸君だったかな? 莉音の未来のお婿さんは、相変わらず癒し系だねぇー」



いくら小さいとはいえ、右に莉音ちゃん、左に陸を抱っこしている優里さんに驚いてしまう。



「重くないのかな……って思ってる?」



隣から声がして見ると、蒼さんが苦笑していた。



「うちの母親、元々格闘技をかじってたし、いまだに筋トレ好きだから、ああ見えて怪力なんだよ」



「優里ちゃぁーんっ! 僕の優里ちゃんは何処だーい」



玄関から、柔らかい男性の声がする。



優里さんを呼ぶ人を予想するに、蓮君のお父さんだと思う。



「おや? あぁっ! もしかして、蓮君の言ってた彼女さんかいっ!?」



現れた男性が、物凄いスピードで近寄って来て、両手を取られる。



圧倒されながらも、目の前で目をキラキラさせている男性を見上げる。



蒼さんや蓮君というよりは、どことなく莉音ちゃんを柔らかくした感じに見える。



凄く素敵な家族で、蓮君から感じる独特の雰囲気は、この家庭環境で育まれて来たんだと、少し頬が緩んだ。



「陸?」



いつの間にか私の近くに来て、制服のスカートを握り締めて俯いている。



陸に目を合わせるようにしゃがみ、顔を覗くと陸の大きな目に涙が溜まっていた。



「ど、どうしたの? 何処か痛い?」



聞いても、陸は首を横に振るだけで、下唇を噛んでいる。



そして、ゆっくり抱きついてくる。



陸の背中に手を回して、出来るだけ優しく撫でると、消え入りそうな弱々しい声で「……ママ」と聞こえて胸がツキンと痛む。



「あら、もしかしたら、ママに会いたくなっちゃったのかな?」



同じようにしゃがんだ蓮君のお父さんは、眉を下げた。



「ご両親は?」



「まだ仕事だと……」



「そうか……なら、会うのは難しいのかな……」



私は陸を抱き上げ、口を開く。



「いえ、たまにこういう事があるので、何度か行った事はあるんですけど」



「そうなんだね。職場は近い?」



「電車で五駅程です」



「じゃ、車で送って行ってあげよう」



「えっ、あ、いや、あの、そんなっ、悪いですっ! 私何度か行った事あるのでっ!」



断ろうとした私の口が、蓮君のお父さんの人差し指に塞がれる。



「こら、若者が遠慮しない。僕は女の子とこんな小さな子だけで、そんな遠くに行かせるなんて出来ません」



そう言って笑った蓮君のお父さんの後ろから、優里さんが「この人の心配性は異常だから」と笑う。



そんなこんなで、お言葉に甘える事になってしまった。



電話で両親に連絡を入れて置いて、車に乗り込む。



泣いていたはずの陸は、車に乗ると周りをキョロキョロし始める。



「じゃ、しゅっぱぁーつっ!」



「しゅっぱぁーつっ!」



そして何故か、蓮君と莉音ちゃん、優里さんまでもが一緒に乗り込んでいる。



まるでピクニックにでも行くかのように、私以外が拳を上に突き上げて、楽しそうに声を揃えていた。

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