第19話

スマホがずっと鳴り続けているけど、出る気にはなれなくて、心で謝りながら枕に顔を埋めた。



何が告白を断るだ。出来もしないくせにと、もう一人の私が嘲笑う。



蓮君の優しい手が触れるのは、抱きしめるのは自分だけがいい。あの愛おしそうな柔らかい笑顔を向けるのは、私であって欲しい。



そんな黒くて醜い感情が、体を支配する。



────コンコンッ。



控え目な、小さいノックが聞こえた。



少しして、扉が少しだけ開いて、小さな体が覗く。



「お姉ちゃん……大丈夫?」



消え入りそうな声で、寂しそうにする陸が視界に入り、体を起こして微笑んだら、陸の寂しそうな顔が笑顔になる。



癒される。



手を広げると、陸が嬉しそうに走り寄って抱きついて来て、その小さな体を抱き上げて優しく抱きしめた。



小さい手をいっぱいいっぱい広げて、私の服を掴むのが愛おしい。



「心配かけてごめんね。お姉ちゃんすぐ元気になるから、もう少しだけ待ってね」



「うんっ! 僕、いい子で待てるよっ!」



陸の言葉が、蓮君の言葉と重なる。



待ては出来ないと言いながら、待つと言った彼は、ずっと私の曖昧な態度を急かすわけでもなく、本当に待っていてくれて。



今日だけだから、明日にはちゃんとするから。



もう遅いかもしれないけど、それまでどうか、待っていてくれますように。



いつもより早くに起きると、妙にスッキリしていて、いつも通りに元気な陸に、出来るだけ明るく挨拶を返すと。



「お姉ちゃんが元気になるようにって、昨日描いたんだよ」



嬉しそうに言った陸から、嬉しいサプライズプレゼントの似顔絵をもらった。



何て可愛いんだと身悶えながら、お礼を言って陸にハグをした。



朝からジャレていると、珍しく朝家にいる母に急かされ、急いで支度をして家を出た。



スマホが鳴る。



唯と莉央奈、そして桂川君からのメッセージ。



朝、昨日心配をかけたお詫びのメッセージを送った返事だ。みんなずっと気に掛けていてくれたようで、何度も謝った。



そしたら、みんなに揃って「謝り過ぎ」と怒られてしまった。



メッセージを返し終えたスマホをカバンに戻し、再び前を向いて歩き出して少しすると、心臓が飛び跳ねる。



今日は、電柱に寄り掛かってスマホを見ている姿じゃなく、まっすぐこちらを向いて立っている。



「蓮君……」



蓮君は何も言わず、ただこちらに歩いて来る。



心臓が、飛び出しそうだ。



少し近づいた所で足を止めた私を他所に、蓮君は止まらなくて。



「ごめん」



そう言って、蓮君は私を抱きしめた。



蓮君の匂いに、安心してしまう。



「ちゃんと説明するから……お願い、冴香……俺から逃げないで……」



桂川君からのメッセージで聞いていた“あんな焦った蓮見たのは初めてだよ”って言葉が、今しっかり理解出来た。



少し震えてる蓮君の背中に手を回して、抱き返す。



「大丈夫、逃げないよ。でも、説明なんかしなくていいよ?」



気にならないわけじゃない。凄く気になる。



けど、無理に聞き出す必要なんかないし、私にそんな権利はない。



もしそれが蓮君の触れて欲しくないものだったら、余計無理に聞くべきじゃない。



「説明させてよ。聞いて欲しい。冴香には、正直でいたいから」



そう言って体が離れ、蓮君の少し不安そうな顔がこちらを見る。



どうしてそんな顔をするのか。



「ただ……お世辞にも褒められた話じゃないから、嫌いにならないで。冴香に嫌われたら俺、死ぬ」



彼はどんな話をするつもりなんだろう。



でも、それを聞いて私が蓮君を嫌いになる事は、恐らくないだろうと、どうしてか分からないけど、今の私には確信があった。



とりあえず学校に向かってからにしようと決まり、二人で学校に足を踏み入れる。



カバンを置いてから、校舎裏に移動する。

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