第18話

放課後。



いつものメンバーで、校門までの道を歩いていた。



校門が、少し騒がしい。



「何かあったのかなー?」



女性が立っていて、男子生徒が数人声を掛けているのか、囲んでいる。



明るめの茶色い髪を腰辺りまで伸ばしていて、子供っぽい私とはまるで違う、メイクも似合う大人で、しかも凄く、美人な人だ。



「蓮、あれ……」



「美亜」



小さく呟いた蓮君が足を止めると、自然にみんなが止まる。



女性がこちらに気がついて、無愛想だった顔がぱあっと明るくなって、笑顔が広がった。



凄く、幸せそうな顔。



「蓮っ!!」



走り出した女性は、蓮君だけを目指す。



勢いよく飛びついた女性を、軽々と受け止める蓮君。



何だか、胸がザワつく。



少し後ろにいた私達は、とりあえず二人を見ているしかなくて。



周りでは「那茅場君とどういう関係っ!?」という女子達の悲鳴に似た声と「また那茅場かよ」という男子の声から始まり、校門前は騒然となる。



「ねぇ、頼ー。あれだーれ?」



「えっとー……」



「知ってるな? さぁ、吐け」



莉央奈と唯に迫られ、桂川君が冷や汗を掻きながら、苦笑して目を逸らしている。



詮索するのも違うし、でも気にならないわけじゃない。



私は、どうしたらいいんだろう。



「ははは、二人共顔が怖いなぁー……。せ、説明しますよ……。あれは美亜さんて言って、昔、蓮の近所に住んでた幼なじみのお姉さん」



それを聞いて、莉央奈が顎に手を当てて、考える仕草をする。



「ははーん。さてはレンレンの最初の女と見た……」



「だね。明らかに“蓮は私のモノ”感凄い出してるし」



「うっ……」



二人の言葉に、桂川君はギクリとした顔で私を見る。



本当に桂川君は素直で正直ないい人なのだと、改めて分かり、少し可哀想になってしまう。



気を使わせてしまった。



「会いたかったよー、蓮っ! また背が高くなったね。相変わらずイケメンさんだし」



「こんなとこで何してんの?」



「久々の再会なのに、相変わらずクールだね。蓮は私に会いたくなかった?」



甘えるみたいに、蓮君の首に腕を回した。



顔が、近い。



「……ゃだ……ゃめて……」



私は今、何を言ったのだろう。



自分の声が、まるで遥か遠くから聞こえるみたい。



私は口を押さえた。



「冴香?」



そしてまたしても気づく。もう片方の手が、蓮君の後ろの服を掴んでいた事を。



無意識だった。



これは、駄目だ。



手を素早く引いて、私は後ろにいる三人に向き直る。



「わ、私、先帰るね。また明日」



「冴香ちゃんっ!」



「冴香っ!」



「冴香っ! 待ってっ……」



唯、莉央奈、桂川君、そして一際大きく蓮君の声が聞こえたけど、私は足を止める事が出来なくて。



喉が痛いけど、それでも走り続けて、自分が今何処を走っているのかすら分からなかった。



涙が、止まらなくて、嗚咽が抑えられず、見つけた路地に身を滑らせてへたり込む。



こんな形で蓮君への気持ちを自覚して、そうなったら溢れて止まらなくて。



初めての感情に、戸惑って、苦しさにカバンを力いっぱい抱きしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る