第14話
ふと視線を感じて、そちらを見ると蓮君がまっすぐこちらを見ていて、心臓がドクンと高鳴る。
優しいのに、何処か熱くて、強い視線に、体に力が入る。
繋がれたままの手が熱い。
「冴香に見せたかった。俺の好きなモノ」
そう言って、蓮君はふわりと優しく笑った。
そんな愛おしそうに笑わないで。
貴方に、引き寄せられてしまう。
感情が、揺れる。
蓮君は、不思議なオーラがあって目立つ上に、背が高くて、顔だって格好よくて、柔らかい印象の優しい人で。
凄くモテるのも頷ける。
そんな彼が、何で私なんだ。
何か特徴があるわけでも、特別可愛いわけでも、ましてや綺麗なわけでもない。
足りないものなんて、上げればキリがないわけで。
何度考えても、答えは出なくて。蓮君なら、もっと素敵な相手がたくさんいるのに。
考えれば考える程、分からなくなっていく。
気持ちが違和感でいっぱいになる。
繋いでいない方の蓮君の手が、私の頬を撫でた。
ビクリと体が反応する。
「悲しい顔……星、嫌い? 嫌、だった?」
「え? あ、ち、違うよっ! 星は綺麗だから好きだし、嫌じゃないっ!」
「そっか、よかった。でも、何でそんな悲しい顔してるの?」
触れる指の先から、痺れるみたいで、身を捩る。
何て言えばいいか分からなくて、蓮君を見上げている私に、彼はやっぱり優しい笑みで、私の言葉を待ってくれる。
私に彼は勿体ないし、恋愛経験も、男性と関わる機会すらほとんどない。そんな私に、彼を扱え切れる気がしない。
なのに、離れるのが、惜しくなっているのは事実で。
いつから、彼がいる生活が当たり前になっていたのか。
「ちゃんと、考える、から……」
ただ黙って聞いている蓮君をまっすぐ見る。
「もう少し、待ってて、くれますか?」
言うと、蓮君の目が少し開いて、そのまま細められて、蓮君の顔が綻んだ。
何て優しい顔で微笑むんだろう。
聞こえるんじゃないかと思うくらい、心臓がうるさくて、胸がザワついた。
「うん、俺、いつまでだって待てるよ」
頬を撫でていた手が、もう片方の手をゆっくり優しく包み込んだ。
心が温かくなる気がした。
私は、今日の事を忘れないだろう。忘れられるわけがない。
それだけ、私の中で明らかに蓮君の存在が大きくなって来ていた。
私は、どうしたらいいのか。どうしたいんだろうか。
その日、私はなかなか寝付けなかった。
「……か……る……」
囁くような声に、眠りの世界から頭が覚醒してくる。
「……きに……る……」
段々言葉がハッキリしてくる。
「……好きになーる」
明らかに蓮君の声だ。
耳元で、呪文みたいに何かを囁かれている。
「冴香は蓮君を好きになーる」
同じ言葉をずっと繰り返している。
「ふふっ……蓮君、何してるの?」
「ん……起きた? おはよう」
「今起きた。おはよう……洗脳?」
「少しでも好きになるかと」
蓮君の純粋というか、真顔の返答に、笑ってしまう。
これを真剣にやっているんだから、蓮君は本当に不思議だ。
「冴香の寝顔見てたいけど、起きて。朝ごはん、出来たって」
柔らかい顔で笑いながら言う蓮君に、起きたばかりの私の心臓が激しく動いた。
蓮君に手を引かれて、洗面所へ向かう。
言わないと何処にでもついてくるから、とりあえず断りをいれて、部屋に戻って着替え、身なりを整えてリビングへ行くと、みんな揃っていた。
挨拶も済ませて、みんなでご飯を食べる。
ワイワイした食卓はやっぱり楽しくて、自然と頬が綻ぶ。
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