第三章

第12話

外泊許可を貰う為、仕事が遅くなる両親に連絡を入れると、あっさり許可が出てお泊まりする事になった。



準備の為一度家に戻り、準備をする。



多分、陸よりも私の方がワクワクしているかもしれない。



陸の分と自分の分を用意し終え、自然と足取りが軽く、鼻歌が出る。



玄関に戻ると、スマホを見ていた視線がこちらに向けられる。



「お待たせ、しました」



「ん」



短く返したのとは裏腹な、優しい微笑みが帰ってくる。



外はすっかり暗いのと、時間が遅いというので、蓮君がついてきてくれた。



二人で並んで来た道を戻る。



二人分の荷物は、あっという間に蓮君の手に奪われてしまった。



「付き合う前にお泊まりとは、想像してなかった。どうしよ、冴香」



「え? どうしよって、何を?」



「冴香が同じ屋根の下にいるって思うと、興奮して眠れない」



無表情で淡々と話す蓮君に、呆気に取られてしまう。



ほんとに蓮君は突然変な事を言うから、びっくりする。



こんなに好意を向けられて思うけれど、蓮君がここまで言ってくれる魅力が自分にあるとは思えない。



匂いと言っていたけれど、自分ではそれは分からないし、唯や莉央奈にも聞いてみたけれど、よく分からなかった。



でも、それだけで人は人を好きになるなんて、あるんだろうか。



理屈じゃないとはいえ、やっぱり恋愛は難しい。



蓮君の家に戻ると、少しして頼君、莉央奈、唯達が戻って来た。



蓮君の家は、部屋はもちろん、お風呂もトイレもキッチンも、とにかく何もかもが広くて、しかもオシャレな造りになってるから、圧倒されてしまう。



私達と莉音ちゃん、女子四人で入っても余裕のあるお風呂で、ちょっとした旅行気分にワクワクが止まらない。



「はい、出来た。お湯入って来ていいよ」



「ありがとう、冴香ちゃん」



洗った髪をまとめてあげると、莉音ちゃんが少し照れたみたいに笑った。



本当に可愛い。まるで妹が出来たみたいで、顔が綻んでしまう。



一通りやる事を終えて、みんなで湯船に浸かる。



「ほんと、何処の温泉だっての」



「ママが旅行と温泉が好きで、どうしてもお風呂だけは譲れないって駄々こねたんだって。パパはママ大好きだから、ママのしたいようにしたらいいって言ったみたい」



呆れたように言う莉音ちゃんは、まるで大人みたいだ。



こんなにゆっくりお風呂に入るのも、久しぶりだ。



いつもはどうしたって、陸と二人でバタバタとしてしまうから、落ち着いて入るお風呂は凄く気持ちいい。



「唯、また胸大きくなった?」



「よく気づいたね。一カップ上がった」



「いーなー。私ももうちょい欲しー」



女子特有の会話を聞きながら、自分の体にこっそり視線を落とした。



お世辞にも大きいとは言い難い二つの膨らみに、溜め息が出る。



「冴香ちゃん、大丈夫。お兄ちゃんはそういうので判断しないから」



励まされてしまった。



濁りのないまっすぐな目が向けられた。



「あ、あり、がと?」



「あははは、慰められてるー」



「胸があるからって特別得って話でもないしね」



二人にまで励まされながら、女子だけのお風呂タイムは終わりを告げた。

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